研究課題/領域番号 |
23760511
|
研究機関 | 独立行政法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
小松 一弘 独立行政法人国立環境研究所, 地域環境研究センター, 主任研究員 (20391104)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | DOM / 光分解特性 / 分子サイズ |
研究概要 |
平成23年度は、霞ヶ浦ろ過試料を対象に光分解の室内実験を行った(放射照度は約1000W/m2)。その結果、短時間照射(6時間照射)で約10%、長時間照射(24時間照射)で約60%と、照射時間の増加に伴う分解率の上昇が確認された。またUV260/DOC ((Abs・L)/(m・mgC))は、短時間照射後においてそれほどの変化が見られなかったのに対し、長時間照射後には著しく変化することが分かった。つまりUV260の発現性が高い構造を有する有機物(不飽和二重結合やベンゼン環を多く有する疎水性有機物)が,短時間照射では対して分解されなかったのに対し,長時間照射では急激に分解された事を意味する。そこで,そうした構造を多く持つと考えられるフルボ酸(霞ヶ浦湖水より抽出)を対象に,同様の光分解実験を施した。その結果、短時間照射でも非常に高い分解率を示す事が分かった。以上の結果から、DOMは光分解性の高いフルボ酸を始めとする疎水性成分の周囲に、光分解されにくい親水性成分等が弱いBindingで結びついた立体構造を形成しているものと推察された。つまり,短時間照射では周囲成分である親水性成分が光分解を阻害した可能性がある。一方,照射が長時間に及ぶと、親水性成分も分解され、疎水性成分の光分解が促進されることによって、分解率が急激に上がったものと考えられた。さらに光分解前後におけるDOMの分子サイズ分布を調べることにより、光分解を阻害するDOM中の周囲成分は、分子量35000Da以上の親水性物質であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は,光照射装置による光分解実験における実験条件の設定と,その設定を適用して湖水,河川水,流域発生源水を対象とした,DOMの光分解特性を捉える予定であった。実験条件の設定段階で,照射時間の変化による分解特性の違いに興味深い知見が得られたため,当初の予定を変更して長時間照射と短時間照射による分解実験を並列して行うことになった。特にDOMから抽出した疎水性物質(フルボ酸)を対象にした実験の結果から,DOMの立体構造に関する重要な仮説を立てることができた。これは非常に新規性・独創性の高い知見であり,当初の予定を越えて研究を進めることができたと言える。ただ平成23年度における光分解実験は湖水を対象としたものに留まり,河川水,流域発生源水を対象とした研究については行うことができなかった。以上の点を考慮して,総合的に鑑みて「(2)おおむね順調に進展している。」と自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,河川水や流域発生源水を対象として,湖水の場合と同様の光分解実験を前年度に引き続き,行っていく予定である。また,当初の予定通り,光照射前後におけるDOMに対し,生分解実験を進めていく。或いは逆に生分解実験前後におけるDOMに対し,光分解特性の把握も行おうと考えている。これらの実験で得られた成果から,DOMの光分解特性と生物分解特性の相互関係について明らかにしていきたい。特に特異的な結果が得られた事例については,DOM中の糖組成分析,アミノ酸組成分析,脂肪酸組成分析等を実施する予定である。これらの組成を調べることによりDOMの続成状態や生物易分解性/難分解性を明らかにすることができるため,前述の生物分解特性の実験結果を裏付けるものとすることができる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
特に脂肪酸組成分析については,未だ分析手法を確立していない。そのため,現在,他用途で使用している測定機器の測定条件を変えて運用することで測定手法を確立する予定である。新規の機器購入ではないため備品が必要となるわけではないが,分析カラム等の消耗品が必要となる。また,糖組成分析,アミノ酸分析においても,実験器具や試薬などの消耗品を購入する予定である。光分解実験においても随時,消耗品を購入予定である。また,成果公表を行うために出張のための旅費(国内を予定)や,論文の英文校閲に係る費用も必要となる。
|