研究課題/領域番号 |
23760513
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
胡桃沢 清文 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40374574)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 熱力学相平衡 / 反射電子像 / 電気伝導率 / 溶脱 / 空隙構造 / セメント硬化体 |
研究概要 |
コンクリート構造物を100年以上の超長期にわたり使用し続けるには、その物性予測が非常に重要である。申請者は既往の研究においてセメント硬化体の3次元空間モデルを構築し、硬化体中のイオンの3次元的な物質移動予測を可能とした。しかしながらこのモデルでは超長期にわたって炭酸化や固体部分の溶脱などによって変質するセメント硬化体の構造変化を予測することができない。そこで本研究においては長期にわたって変質するセメント硬化体の経時変化を固相、液相と気相の熱力学相平衡計算によりシミュレートし、それを3次元空間モデルに取り入れることにより硬化体の変質過程を組み入れた物質移動予測を行うことを目的とした。短期間で劣化させた試験体の評価も可能でなければならないため促進劣化させた試料の評価を行い、モデルの妥当性を確認した。特にコンクリート構造物においては地下においては地下水との接触によるカルシウムの溶脱が想定される。そこで上記の点について検討を行うとともに想定される環境状況を勘案して、硬化セメントペースト試験体の水セメント比を0.3から0.8の広範囲にわたり作製し、空隙構造及び各相の存在量の異なる構造をもつ試験体の評価を行った。また、カルシウムの溶脱が少なく、物質移動抵抗性が高いことが報告されている緻密でC-S-HのCaO/SiO2比の低い構造を有する高炉スラグを混和した試料(セメント置換率0.3、0.5、0.7)を用いて同様の評価を行った。熱力学相平衡計算では各種鉱物の平衡定数が重要なパラメータとなるため、熱力学相平衡計算のための各種パラメータ値の文献調査を行いモデル構築のための最適な値について検討を行った。さらに簡易に物質移動特性を測定できる方法として電気伝導率測定の検討を行った結果、ACインピーダンス法によって測定された電気伝導率は塩分浸透性と非常に高い相関が得られその有効性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
セメント硬化体のカルシウム溶脱に伴う空隙構造の変化のモデル化を、普通ポルトランドセメントを用いて検討を行った結果、水酸化カルシウムの溶脱後にC-S-Hの溶脱によって空隙量が変化することを考慮し構築したモデルと実験結果はよく一致した。空隙構造変化は空隙量の増加とともに空隙の連続性や、屈曲度といったその他のパラメータを含めた形状係数として算出しそれが物質移動特性に大きく影響を及ぼすことを明らかにした。これらのことから本年度の3次元構造モデルによる物質移動特性予測はおおむね予定通りに行われた。ただし、高炉スラグ微粉末やフライアッシュを加えた混和材を含んだセメント硬化体のモデル化はまだ行っておらず、来年度に行う必要がある。これらの混和材に関する実験についてはおおむね順調に進んでいる。また、熱力学相平衡モデルにおいては計算を行う計算ソフトによっても若干結果に相違がみられるが、平衡定数によってその計算結果が異なることを明らかにした。ただし、熱力学相平衡計算と3次元空間モデルの統合までには至っていないため来年度にモデル化の統合を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
普通ポルトランドセメントを用いたセメント硬化体の促進溶脱実験及びモデル化を水セメント比の異なる試験体を用いて行う予定である。これらを行うことにより空隙構造と水酸化カルシウムの量などが異なる試験体に対してモデル化を行うことが可能となり広範囲にわたる硬化体に対して適用可能なモデルを構築することができる。また、フライアッシュや高炉スラグ微粉末を混和したセメント硬化体に関しても同様に実験とモデル化を引き続き行う。フライアッシュや高炉スラグ微粉末を混和した試料では水酸化カルシウム量が少ないため溶脱による空隙構造の変化が大きくなく、さらにその主要な生成物であるC-S-Hの構造が普通ポルトランドセメントと異なるためそれらを定式化しモデルに組み込む予定である。熱力学相平衡計算においては普通ポルトランドセメントを用いた系に関してはほとんどモデル化が終わっているため、こちらもフライアッシュと高炉スラグ微粉末を混和した系のモデル化を行う予定である。混和材を混和したセメント硬化体におけるC-S-Hは普通ポルトランドセメントと大きく異なるため使用する平衡定数をCa/Si比やAlの存在量などにより定式化しそれらを含めてモデル化を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
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