コンクリート構造物を100年以上の超長期にわたり使用し続けるには、その物性予測が非常に重要である。申請者は既往の研究においてセメント硬化体の3次元空間モデルを構築し、硬化体中のイオンの3次元的な物質移動予測を可能とした。しかしながらこのモデルでは超長期にわたって炭酸化や固体部分の溶脱などによって変質するセメント硬化体の構造変化を予測することができない。そこで本研究においては長期にわたって変質するセメント硬化体の経時変化を固相、液相と気相の熱力学相平衡計算によりシミュレートし、それを3次元空間モデルに取り入れることにより硬化体の変質過程を組み入れた物質移動予測を行うことを目的とした。 短期間で劣化させた試験体の評価も可能とするため促進劣化させた試料の評価を行い、モデルの妥当性を確認した。特にコンクリート構造物においては地下においては地下水との接触によるカルシウムの溶脱が想定される。そこで上記の点について検討を行うとともに想定される環境状況を勘案して、硬化セメントペースト試験体の水セメント比を0.3から0.8の広範囲にわたり作製し、空隙構造及び各相の存在量の異なる構造をもつ試験体の評価を行った。また、カルシウム溶脱が少なく、物質移動抵抗性が高いことが報告されている緻密でC-S-HのCaO/SiO2比の低い構造を有する高炉スラグを混和した試料(セメント置換率0.3、0.5、0.7)を用いて同様の評価を行った。物質移動特性を測定できる方法として電気伝導率測定の検討を行った結果、ACインピーダンス法によって測定された電気伝導率は塩分浸透性と非常に高い相関が得られその有効性を確認した。さらにNMRによって溶脱した試料の解析をおこなった結果、溶脱試料は構造が溶脱していない試料と大きく異なることが示唆された。最後に溶脱を考慮した物質移動モデルの構築を行い、実測値と一致する結果が得られた。
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