研究課題/領域番号 |
23760519
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西村 康志郎 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00343161)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 鉄筋コンクリート / 隅柱梁接合部 / 2方向加力 / 定着補強筋 |
研究概要 |
鉄筋コンクリート造ラーメンにおいて、本研究研究課題の目的である、より自由な断面の梁や柱による架構を可能とするには、従来構法と同等以上の性能を有することが必要と考えられる。従来と異なる断面を用いた場合、隅柱と梁の接合部における配筋が課題となるが、従来構法においても隅柱梁接合部の2方向加力実験研究は少なく、その構造性能は明らかになっていない。隅柱梁接合部では接合部に捩りモーメントが生じるが、現在の評価方法はこれを考慮する形にはなっていない。言い換えると、接合部内のせん断力を伝達する領域の有効断面積の採り方が1軸の場合と同じである。また、柱梁接合部内では圧縮ストラットが形成され、梁主筋の定着は圧縮ストラットを横切ることが基本であるが、2方向加力の場合は梁主筋の定着は圧縮域の外となるケースが考えられる。梁曲げ降伏型ラーメンを実現するには、梁主筋を確実に定着する必要がある。本年度は、接合部内の応力伝達機構を把握する目的で、隅柱梁接合部試験体を3体作製して繰り返し加力実験を行った。柱曲げ強度は梁曲げ強度の1.15倍程度とし、実験パラメータを梁曲げ強度に対する接合部強度の比率および梁主筋径とした。実験結果より次の知見を得た。1)接合部の強度は従来の方法で評価できる。2)接合部のせん断強度計算値が梁曲げ強度の1.5倍程度であっても、梁主筋径が大きいと、大変形時に接合部が損傷し、履歴ループのスリップ性状が顕著になる場合がある。3)直交方向の梁主筋は定着補強筋として機能し得る。4)接合部が損傷すると、柱軸廻りの捩れ剛性が著しく低下する。以上のように、より自由な形状の断面による鉄筋コンクリート造ラーメンを実現するための基礎的なデータが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度は、おおむね順調である。その理由は、建築において新しい構法に挑戦するには、現行法に従って従来構法と同等以上の構造性能が求められるが、最初の目標である従来構法の構造性能を把握するための実験研究を達成したからである。すなわち、これまで明らかではなかった、鉄筋コンクリート造隅柱梁接合部が2方向から荷重を受けたときの応力伝達機構を把握するための実験データが得られたことが成果である。これまで、少ないながらも、隅柱梁接合部材の2方向加力実験は行われていたが、それらは柱が梁よりもかなり強度の高い試験体であり、実際の建物との差異が大きかった。本年度の実験研究では、梁降伏型の実際の建物に近い試験体を作製し、データが得られたことが注目すべき点である。本年度の実験結果より、接合部内の横補強筋の効果や、梁主筋や柱主筋の降伏に伴う接合部内応力伝達の変化を分析することで、隅柱梁接合部の構造性能が明らかになると考えられる。また、実験結果より直交方向の梁主筋が定着補強筋として機能し得る結果が得られたことも大きい。つまり、より自由な断面の採用に向けて大きなヒントを得られたことを意味し、達成度が高いと判断した理由のひとつである。この定着補強筋の効果をある程度定量的に評価できれば、より自由な断面の採用が可能となる。例えば、幅広梁を用いると接合部ではね出し部分が生じるが、直交方向の梁主筋によって梁主筋の定着が確保できれば、梁降伏型のラーメンが成立する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の隅柱梁接合部材の実験結果をFEM解析で分析し、梁幅が柱幅より広い場合の接合部で有効な配筋を検討する。前年度の実験で、梁主筋の柱内での定着部において、梁が曲げられたときに生じる梁主筋の引張力に対して、直交方向の梁主筋が定着補強筋として機能しえる結果が得られた。この効果をFEM解析で分析し、幅広梁主筋の隅柱への定着において、有効な配筋を提案する。前年度の実験結果を用いて、接合部内コンクリートの斜め圧縮ストラットによる応力伝達が柱や梁の主筋の降伏によって生じる変化するメカニズムをFEM分析し、効果的な横補強筋の配筋法や接合部強度の評価法を提案する。隅柱梁接合部材のFEM解析では、梁主筋の定着部の応力を精度良く再現する必要があるため、定着部のモデル化などに課題があり、また、対称性を利用できないので部材を全てモデル化する必要がある。解析で一定の成果を得るのに時間を要するので、2年目は部材実験を行わず、必要に応じて材料・要素実験を行う予定である。提案した配筋は、3年目に部材実験で検証する。隅柱と幅広梁の接合部材試験体を作製し、2方向加力を行い、幅広梁を用いた構法の設計法を検討する。梁降伏型を想定しているので、梁主筋の引張力が梁幅方向に均等になるような配筋方法を提案する。また、雑壁を利用した梁塑性ヒンジ位置のリロケーションに関する検討も行う。選択肢の多い接合部の設計法を目指す。2012年9月に開催させる第15回世界地震工学会議に参加し、前年度の成果発表を行い、関連研究の情報の交換や収集を行う。
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