研究課題/領域番号 |
23760519
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西村 康志郎 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00343161)
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キーワード | 鉄筋コンクリート / 外柱梁接合部 / FEM解析 |
研究概要 |
本研究課題の目的である鉄筋コンクリート梁柱接合部の3次元応力伝達を考慮した耐震設計法の確立には、多軸応力状態を考慮した接合部内のせん断力抵抗機構を考える必要がある。昨年度は、鉄筋コンクリート造ラーメンで最も弱点となり得る隅柱梁接合部材の加力実験を行った。その結果、従来採用されていた2次元のせん断力抵抗機構では説明できない現象が確認された。本年度は、この現象を解明し、有効な配筋方法を模索する目的で、有限要素法による解析研究を行った。 この問題は、接合部内の立体的なコンクリート圧縮域と梁の鉄筋の定着位置の関係に原因があると考えられる。定着筋の性能は、周囲のコンクリートの応力状態(圧縮されていると定着性能が良い)に影響される。したがって、定着筋の性能が接合部の損傷に与える影響を有限要素解析で明らかにすることを目的とした。まず、過去に行った鉄筋の引抜実験結果を基に、折曲げ定着筋の直線部分とフック部分のモデル化を行った。いずれのモデルもリンク要素で作成し、それらの構成則を実験結果に対応するように設定した。設定したモデルを外柱梁接合部材に適用し、実験結果と比較した。対象の試験体は梁曲げ降伏型のもので、梁曲げ後の接合部の損傷(ひずみ)に着目した。その結果、折曲げ定着筋の直線部分の性能が接合部の損傷にかなりの影響を与えることが分かった。一般に鉄筋径が大きいと付着には不利に働くので、接合部の設計において定着する鉄筋の径を考慮する必要があることが示唆された。 成果発表のために第14回世界地震工学会議に出席し、関連研究についての情報収集も行った。この会議は、4年に1度開催され、地震工学分野では最大の国際会議である。この会議で世界の研究者と意見交換ができ、有意な情報を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度はおおむね順調である。本研究目的のひとつである新しい構法への挑戦では、必ずディテールを解決する必要がある。自由な発想で構造体を計画しても、ディテールに問題があると実現できない。鉄筋コンクリート構造で着眼されるディテールは配筋で、特に鉄筋の定着部となる。1年目は、隅柱梁接合部材の加力実験により、定着部での問題点を抽出できた。それは、同等な構造特性を持つ接合部でも梁主筋の径の違いで大変形時の損傷程度が異なるというものである。これは定着鉄筋の応力と周辺コンクリートの応力の関係を考慮する必要性を示唆している。2年目である当該年度は、有限要素法を用いた解析により、折曲げ定着筋の直線部分の付着性能が接合部の損傷に与える影響を定量的に示したことが成果である。折曲げ定着筋の直線部分は、柱の曲げひび割れにより付着性能が低下することが分かっていたが、それが接合部内のコンクリートの損傷程度に大きく影響することを示したことが新しい成果である。これにより、多軸応力状態の接合部で有効な配筋を考案する手掛かりを得ることができた。鉄筋の定着性能を確保するためには、鉄筋を増やして応力を抑制し、周辺コンクリートを拘束するなどして圧縮の状態にすることが有効な手段のひとつである。この方法は高い技術を要しないという意味では簡単だが、この方法で3方向から部材が交差する接合部で配筋することは非常に難しい。効率的な配筋を考え、その効果を確認するには、解析による方法と実験による方法があるが、本研究では予定していた通り、実験で有効な配筋方法を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の有限要素法による解析結果を参考にし、柱よりも幅の広い梁を有する隅柱梁接合部における配筋方法について検討する。この形式では、梁主筋の定着部が収まらないので、梁主筋の応力を円滑に伝達させるために工夫が必要となる。採用する方法は、応力が大きな箇所では主筋を増やして鉄筋の応力を抑制し、横補強筋を増やしてコンクリートを拘束する方法である。この方法の効果を確認するには、解析あるいは実験による2つの方法がある。解析の場合は、鉄筋とコンクリート間の付着や定着について、周囲コンクリートの応力の影響を考慮できるモデルを新しく考案し、3次元非線形解析を行う方法である。これについては、申請課題からは少し外れるので別の機会に挑戦する。従って、本研究では予定していた通り、実験により有効な配筋方法について検討する。 実験で対象とする試験体は、柱よりも幅の広い梁を有する外柱梁接合部試験体である。加力方法は、正方形柱の対角線方向にせん断力を作用させるもので、直交する対角線の2方向それぞれについて繰り返し強制変位を与える。加力方向について、一つは接合部にねじりが生じる方向で、もう一つは柱の軸力が変動する方向である。配筋のパラメータは、従来の仕様のみを適用した配筋と応力を考慮して軸方向筋や横補強筋を必要な部分に付加した配筋の2種類とする。加力方向と配筋のそれぞれ2種類ずつをパラメータとし、4体の試験体を作製する。試験体は、1年目に作製した通常の梁と隅柱の接合部材と同等な構造特性を有する試験体を設計する。実験結果より、配筋方法の有効性や通常の梁柱接合部試験体との相違点などを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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