研究課題/領域番号 |
23760526
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
柏 尚稔 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40550132)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 耐震構造 / 基礎構造 / 杭基礎 / 地盤改良 / 杭頭接合 |
研究概要 |
本研究は、変形性能に優れる弾性関節接合杭と高い減衰性能を持つ改良地盤を杭周地盤へ適用することにより、大地震時においても機能性を保持できる高性能耐震機構を開発する事を最終の目的とする。兵庫県南部地震では杭基礎に被害が生じた事例が見られた。中でも杭頭が損傷した例は多数あった。杭基礎が損傷すると上部建物が不同沈下する恐れがあり、建物の機能性が著しく損なわれる可能性が大きい。近年、兵庫県南部地震クラスの地震動が数多く観測されている状況において、杭基礎の耐震性能を向上させることは緊急の課題である。本研究課題では、弾性関節接合を杭頭接合法として適用することで杭の変形性能を向上させ、さらに杭周地盤への地盤改良を併用することで、杭の水平地盤反力係数をコントロールし、大地震においても極めて想定に近い性能を発揮できる高性能耐震基礎機構を提案する。本年度は研究の第1段階として、杭基礎の水平抵抗を向上させる手法として杭周地盤への地盤改良に焦点を当て、振動台を用いた乾燥砂地盤における杭基礎模型の振動実験を行い、小地震から兵庫県南部地震波のような過大地震までの地震動を杭基礎建物模型が被った場合に、杭周地盤の地盤改良が杭の水平抵抗に及ぼす影響を分析した。振動台実験より、次の知見を得た。1) 中加震までは、改良地盤が厚くなるほど、入力に対する上部質量のフーリエスペクトル比のピークが上部構造の固有振動数に近くなり、上部質量の加速度応答は大きくなる。一方、大加震では、改良地盤の厚さと上部質量の応答加速度には相関関係が見られなくなる。2) 杭周に改良地盤を設置すると、杭の最大曲げモーメントも小さくなる。ただし大加震では、改良地盤の周囲の地盤に大きな地盤変状が現れる影響で、改良地盤の厚さによって杭の最大曲げモーメントの低減量が異なり、改良地盤が薄い場合には、杭の最大曲げモーメントの低減量は小さい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、杭の水平抵抗の向上を目的とした杭周地盤への地盤改良が、上部建物および杭の地震挙動に及ぼす影響を明確にするために、重力場での振動台実験を実施し、改良地盤の基本性能の把握に焦点を当てた。その結果、過大地震時における改良地盤の基本性能を把握できたこと、今後の解析による分析のための基本データを蓄積できたことは、本年度実施の研究における重要点である。本年度実施する予定であった、杭の静的繰り返し水平載荷実験については、提案機構の見直しと規模の大きな実験への慎重な準備をすることにより、次年度に行うこととした。実験の実施について、当初の予定よりやや遅れているが、次年度の研究成果と合わせることによって、杭の耐震性能の高性能化に大きく貢献できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、(1)H23年度実施の実験に対する3D-FEMによるシミュレーション解析、(2)遠心載荷装置を用いた液状化地盤における杭基礎建物模型の振動実験、(3)弾性関節接合杭の静的曲げ実験を行い、提案機構の実現を目指す。なお、研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。(1) 3D-FEMを用いて、実験をシミュレーション可能な解析モデルを構築し、改良地盤、敷地地盤の物性値や杭・上部構造の物性値が実験結果に及ぼす影響を分析し、実物大建物において、得られた実験結果の意義を解析的に明確にする。(2) 遠心載荷実験では、液状化地盤を対象として提案機構の性能を明らかにする実験を行う。液状化地盤においては地盤の変形が卓越するため、杭には非液状化地盤よりも高い変形性能が求められる。液状化地盤に対する実験としては、重力場の振動実験も有効であるが、実物大杭基礎建物に対する実験結果の意義を高めるためには、遠心場での振動実験を実施することが必要と考える。実験は改良地盤の有無をパラメータとして、杭頭部剛性を下げることで弾性関節接合部を模擬した杭基礎建物模型に対して、振動実験を実施する。(3) 提案機構の中の弾性関節接合部が実物で想定の性能を発揮する事を確認するために、杭の静的曲げ実験を行う。大阪大学内に設置されている汎用耐震実験装置を用いて、杭頭に弾性関節接合を適用した杭の静的繰返し水平載荷実験を行う。実験は上部建物荷重を想定して常時鉛直荷重を作用させながら、漸増振幅繰返し変位を杭頭に作用させる。杭試験体はコンクリートで製作する。提案機構との比較のため、従来から用いられている杭頭と基礎梁を剛接した杭試験体についても同様の実験を実施し、両者の終局状態までの変形性能を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1) H23年度実施の実験に対する3D-FEMによるシミュレーション解析では、LS-DYNA3DおよびSoil Pulsを1年リースで購入する。(2) 遠心載荷実験では、杭基礎建物模型、地盤材料、ひずみゲージ、間隙水圧計、圧力計を購入する。(3) 杭の静的曲げ実験では、杭試験体3体、ひずみゲージを購入し、計測機器は大阪大学所有のものをリースする。
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