研究課題/領域番号 |
23760531
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
佐藤 大樹 東京理科大学, 理工学部, 助教 (40447561)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 超高層免震建物 / 長期観測 / 風応答 / 併進振動 / 捩れ振動 / 高次モード / 居住性評価 / 残留変形 |
研究概要 |
本研究は超高層免震建物に風外力が作用した際の並進・捩れ振動について、観測および風洞実験結果を用いて、振動の発生メカニズムを明らかにすると共に、それを再現する解析手法を構築することである。今年度は、東京工業大学すずかけ台キャンパスに建設されている、超高層免震建物(以下、J2棟)の過去5年間の観測記録の中から、風速の高い2007年10月27日の台風20号と、2011年9月21日の台風15号に着目し、超高層免震建物の風応答特性について検討を行った。はじめに、風向・風速の違いが建物の並進・捩れ振動性状に与える影響について、20階で観測された加速度データを用いて詳細な検討を行った。検討の結果、J2棟における風応答時の捩れ振動は大きく、風速・風向によっては併進振動と同等の値となることが確認された。J2棟のように扁平な平面形状を有する超高層免震建物の場合、併進振動たけでなく捩れ振動にも注意した応答評価が必要である。さらに、併進振動に含まれる高次モードの寄与率について加速度記録を用いて評価した。併進成分に含まれる高次モードの寄与は低風速時には比較的大きいが、風速が高くなる領域では1次モードが90%程度を占めることが確認された。建物の固有周期と最大応答加速度により、J2棟での風応答時の知覚確率の評価を行った。2007年10月27日の台風20号では10%の人間が揺れを感じるH-10となったが、2011年9月21日の台風15号では90%の人間がゆれを感じるH-90となった。さらに、風応答時の免震層の変形に着目した検討も行った。風速の増大により免震層の変形が確認された。免震層変形は免震層に設置されている鋼製ダンパーの弾性範囲内ではあったが、免震層での非線形挙動により、固有振動数免震層の変形にともない低下することを確認した。また、台風通過後には免震層に残留変形が残ることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究実施計画は、過去5年以上蓄積されている観測データを用いて、風速・風向の違いによる建物の並進・捩れ振動影響を検討することと、次年度に用いる解析モデルを作成するための構造諸元を取得することである。はじめに、膨大な観測記録の中から、風速の高い2007年10月27日の台風20号と、2011年9月21日の台風15号に着目し、超高層免震建物の風応答特性について検討を行った。20階で計測された加速度観測記録を用いて、風応答を併進振動と捩れ振動に分離し、それぞれを風向毎に整理し、風速と各応答の関係を詳細に検討した。その結果、風向風速によっては、捩れ振動が併進振動と同等の値となることがあり、風速・風向の違いが併進・捩れ振動に与える影響は大きいことが、超高層免震建物であるJ2棟の観測記録から明らかにすることができた。さらに、20階での応答加速度記録から、免震層変形に伴う建物固有振動数の変化を確認することができた。免震層の変形は、免震層に設置されている鋼製ダンパーの弾性範囲であるものの、免震層が非線形挙動となるため、免震層の変形に伴い固有振動数が低下したものと思われる。この固有振動数の変化を、簡単なせん断モデルを用いて検証した。まず、頂部で観測されている平均風力から、建物に作用している風力を推定した。その風力を建物の固有振動数が風観測記録と一致するように免震層の剛性を調整した解析モデルの剛性を用いて、静的な釣合いから算出した免震層の平均変位は観測記録と概ね一致した。以上より、微小変位での免震層の剛性の変化によって、風応答時の固有振動数の変化する現象を再現することができた。さらに、本検討結果は次年度に予定している解析モデルに必要な情報を取得することができた。以上より、今年度の計画を概ね達成できたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、今年度に行った観測記録より得られた、風速・風向の変化が併進・捩れ振動に与える影響を更に詳細に検討するため、対象とする風速・応答観測データを増やすし、より細かい風応答性状を観測記録から把握する予定である。また、J2棟の隣に建設されたJ3棟の影響を検討するために、J3棟建設以前、建設中、建設後の観測記録を比較することで、建物の形状や動特性変化およびそれらの変化が、風応答時の併進・捩れ振動や高次モードに与える影響を検討する。上記の観測記録を整理する作業と平行して、風洞実験を行い、時刻歴解析に用いる風向毎の風力データを取得する。台風時には時々刻々と風速・風向が変化するため、それを再現できる風力データを得るために、様々な風速・風向での風洞実験を行う予定である。対象建物である、J2棟を部材レベルでモデル化し、風洞実験より得られた風力データを用いて時刻歴応答解析を行う。モデル化するに当たり、観測記録から剛性や減衰定数を同定し、モデル化の精度を向上させる。風応答の時刻歴解析による応答評価は、モンテカルロ手法に基づく。そのため、数多くの時刻歴解析結果のアンサンブル平均によって風応答を評価する必要がある。扁平な平面形状を有し、超高層免震建物であるJ2棟において、安定した解を得られるアンサンブル数を事前に把握することは難しく、数多くの解析結果を用いて施行錯誤的に、本研究でのアンサンブル数を決定する予定である。また、アンサンブル数によるバラツキの範囲を示すことで、設計時に有用な情報を提供する。安定した解が得られた後、解析結果と観測記録を比較し、風応答時の併進・捩れ振動の特性について、風向毎に詳細な検討を行い、発生メカニズムの解明および高精度に観測記録を再現するための、モデル化手法および解析手法の提案を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度も今年度と同様に風応答観測を継続することから、膨大な観測データ(生データ)を保存するためのハードディスクが必要となる。さらに得られた観測データを処理し、検討するため処理後のデータは生データの数倍の容量になる。これらのデータを保存するためハードディスク(2TB)を10台以上購入する予定である。次年度(平成25年度)は、時刻歴解析に用いる風力データを取得するために、風洞実験を実施するための費用が必要となる。風洞実験を実施するためには、風圧模型を新たに作成する必要がある。風圧模型は、100以上の風圧測定が可能なアクリル板によって作成された剛模型であり、専門業者に特別発注するため高価となる。さらにJ2棟の隣に建設されたJ3棟の影響を確認するため、J2棟単体での模型に加えて、J3棟を接続した模型も製作する必要がある。また、建物周辺の環境(他の建物や周辺の森など)が建物に作用する風力に影響を与えているかを、建物周辺にそれらを再現した周辺模型を設置することで確認する。そのため、精密は周辺土地模型を作製する予定である。
|