研究課題/領域番号 |
23760531
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
佐藤 大樹 東京理科大学, 理工学部, 助教 (40447561)
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キーワード | 超高層免震建物 / 長期観測 / 風応答 / 併進振動 / 捩れ振動 / 免震層剛性 / 居住性評価 / 残留変形 |
研究概要 |
本研究は超高層免震建物に風外力が作用した際の並進・捩れ振動について、観測および風洞実験結果を用いて、振動の発生メカニズムを明らかにすると共に、それを再現する解析手法を構築することである。 今年度も昨年度と同様に、東京工業大学すずかけ台キャンパスに建設されている、超高層免震建物(以下、J2棟)の過去5年間の観測記録の中から、風速の高い2007年10月27日の台風20号と、2011年9月21日の台風15号に着目し、超高層免震建物の風応答特性について検討を行った。特に今年度は、免震層の風応答時の剛性について設計値と比較し検討を行った。 免震層の剛性を観測記録から算出する場合、免震層の変形と免震層に作用する層せん断力が必要となる。変形については観測記録を用いることができるが、せん断力については何かしらの方法を用いて算出する必要がある。地震観測において、絶対加速度記録と建物質量より算出した慣性力を用いて、免震層に作用しているせん断力の時刻歴を推定する手法が用いられることが多い。しかし、各層に作用している外力を計測することができない風応答については、上記の手法を用いることができない。本研究において、観測されている10分毎の頂部平均風速から,粗度区分を仮定し,高さ方向の平均風速分布を推定する。さらに,上部構造に作用する10分間の平均風力を算出し,免震層に作用するせん断力を算出する手法を提案した。 算出した剛性は設計値に対して約1.5倍となった。この剛性を用いた簡単なせん断モデルを作成し固有値解析から固有振動数を算出した値は観測記録とよい対応を示した。観測記録の固有振動数が設計値に比べ高い理由は、免震装置の微少変形時の剛性が高いことが原因と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究実施計画は、過去5年以上蓄積されている観測データの中から、応答が大きい台風時のデータを用いて、対象建物のシミュレーションに必要な構造パラメータ、特に免震層の剛性を評価することである。 観測記録から風応答時の免震層の剛性を評価するために、免震層に作用するせん断力の算出手法の提案を行った。提案手法の妥当性を検証するために、建物に対してほぼ正対する風向となった2007年10月27日の台風20号のデータを用いた。観測されている頂部風速から建物に作用している平均風力を推定し、その値を用いて免震層に作用する層せん断力を算出した。層せん断力と観測されている免震層の変形から免震層の履歴を求め、そこから最小自乗法により等価な剛性を算出した。算出した免震層剛性を用いて簡単なせん断モデルを用いた固有値解析を行い、観測記録と比較することで、本手法で算出した剛性の妥当性を確認した。観測記録より求めた免震層の剛性は変位依存性を有していることが確認できた。次年度に予定している対象建物の風応答シミュレーションを行う際に、免震層には変位依存性を考慮した非線バネを用いる必要があると思われる。 提案した手法を用いることで、免震層の詳細が特性を観測記録から得ることができた。以上より、今年度の計画を概ね達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、今年度に行った観測記録より得られた、免震層の剛性評価手法を風速・風向の変化した場合にも適用し、風速・風向の変化が免震層の剛性に及ぼす影響を更に詳細に検討する。そのため、対象とする風速・応答観測データを増やし、より細かい風応答性状を観測記録から把握する予定である。また、J2棟の隣に建設されたJ3棟の影響を検討するために、J3棟建設以前、建設中、建設後の観測記録を比較することで、建物の形状や動特性変化およびそれらの変化が、風応答時の建物応答や免震層の剛性に与える影響を検討する予定である。 上記の観測記録を整理する作業と平行して、今年度の実施した風洞実験を行い、時刻歴解析に用いる風向毎の風力データを用いた3次元部材モデルによる時刻歴応答解析を実施する。台風時には時々刻々と風速・風向が変化するため、それを再現できる風力データを得るために、様々な風速・風向での風洞実験を用いた、風力作成手法の提案を試みる。 風応答の時刻歴解析による応答評価は、数多くの時刻歴解析結果のアンサンブル平均によって風応答を評価する必要がある。扁平な平面形状を有する超高層免震建物であるJ2棟において、安定した解を得られるアンサンブル数を事前に把握することは難しく、数多くの解析結果を用いて施行錯誤的にアンサンブル数を決定する予定である。さらに設計時に有用なスペクトルモーダルを用いた手法を確立するための基礎的情報を提供することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も今年度と同様に風応答観測を継続することから、膨大な観測データ(生データ)を保存するためのハードディスクが必要となる。さらに得られた観測データを処理し、検討するため処理後のデータは生データの数倍の容量になる。さらに加えて、膨大なケースの時刻歴解析を実施するため、データを保存するためハードディスク(2TB)を10台以上購入する予定である。 J2棟の隣に建設されたJ3棟の影響を確認するため、J2棟単体の模型に、J3棟を接続した模型を製作する必要がある。風圧模型は、100以上の風圧測定が可能なアクリル板によって作成された剛模型であり、専門業者に特別発注するため高価となる。また、風洞実験を実施するための費用も必要となる。 その他、打ち合せのための旅費、研究成果を発表するための論文投稿費および学会参加費に使用する。
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