研究課題/領域番号 |
23760535
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研究機関 | 東京工芸大学 |
研究代表者 |
岡田 玲 東京工芸大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (40514170)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | GPS / 仮想基準局 / 風応答モニタリング |
研究概要 |
従来、構造物の応答計測を行う際に用いてきた加速度計では不可能であった応答変位の静的(平均)成分および準静的成分の計測がGPSを用いることにより可能であることが既に明らかにされている。本研究ではGPSを利用した都市建物群の広域ネットワーク型応答観測システムの構築を行うために、必ず必要となる基準点のアンテナ網を構築することを最終的な目的とする。本研究でVRSを利用した基準点ネットワークを構築することで,これまで、基準点が建物の間に入ると受信状態が不安定なるなどの困難が伴っていた都市部の建物群の静的変位を含んだ応答計測ネットワークを構築することが可能となる。この応答計測ネットワークの構築により,都市建物群の応答モニタリングが可能になるだけでなく,防災センター等において,応答のリアルタイムでの一括監視が可能となり,都市防災システムの構築に対して重要なインフラストラクチャ技術となる。更に,都市部の建物群のFEM解析モデルをコンピューター内に構築することで,都市建物群を構成する各建物のヘルスモニタリングが可能となり,大地震や台風などの自然災害の低減に寄与することが可能となる。本モニタリング技術では、対象となる建物に設置する測定点のほか仮想基準点が必要となる。そのために国土地理院が日本中に有している中から仮想基準点(町田、大井、山梨大月)を選択し、精度検証を行った。仮想基準点を用いた計測では短基線の実基準点を用いた計測より若干精度が劣ったが状態の良い時にはほぼ同程度の精度で計測が可能であることがわかった。また,都市建物群の応答観測網を構築することを目的として,基準点を新宿区内に1地点、千代田区内に2地点の合計3箇所の高層建物の頂部にGPSアンテナを設置した。結果の一例として,強風時には建物の応答変位の観測が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国土地理院が有している電子基準点のデータを利用するためのインフラストラクチャ技術の整備を行った。特にデータを各基準点からネットワークを介して一箇所に集約するためのリアルタイム通信技術の構築、応答を測定するソフトウェアおよびネットワークを制御するソフトウェアの開発を行った。その過程において、フィルタリング方法、補間方法なども含めての計測システムの構築となった。国土地理院のリアルタイムデータを用いる際の問題点として挙げられるのが、地理印で採取しているデータの間隔が1秒であることなどがあげられるが、その間隔でのデータを用いたときに得られるデータの精度検証を行うために、所有する複数のGPSを東京工芸大学の厚木キャンパスと中野キャンパスに設置し、そこから得られるデータとの対応からよい精度を示していることを確認した。また、都心部の複数の高層ビルの頂部にGPSアンテナを設置し、複数の基準GPSアンテナから構成される仮想基準点におけるデータを取得するためのインフラの構築を行った。ネットワークを拡張した際には新たに物理的な問題点、やソフトウェアの開発の必要性などが生じてくることは十分に考えられるが、それは次年度のコンテンツであり、それぞれの測定点がきちんと動作しているかに関する確認が今年度の進展内容のひとつとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に構築した国土地理院のデータを用いた応答計測技術では、取得が可能なデータの間隔が1秒であるという問題点があった。これにおいても建築物の1次モード応答を計測するには精度が保証されていることは確認されたものの、より高い次数のモードの応答を考えるならばより取得間隔の短い観測網の構築が必須となる。独自にデータ取得網により計測されたデータの有する精度の検証を行う。前年度に検討を行った仮想基準点データの作成方法を用いることで実際に仮想基準点のデータを作成し、得られた結果に対する精度検証を行う。将来的にはなるべく数多くの基準点を設置することを前提として、ある対象点の応答をより正確に得るために最適なアンテナを仮想基準点データを作成するための基準点をシステム側で選択することで都心においても精度の高い建物応答を計測することが可能となり、また構築したインフラ技術によりリアルタイムに建築物の静的成分を含めた応答、さらには建物の数値モデルに対して得られた応答を適用すれば、各部材の応力分布まで含めた建築物のリアルタイムヘルスモニタリングシステムへと推進していくことも可能とすることを視野に入れている。国土地理院の電子基準点で測定間隔が1秒であったのに対して、本プロジェクトで設定したGPSセンサーを仮想基準点での基準値を得るとすれば測定間隔が0.1秒にまで改良できることが確認されたわけだが、これにより上述のとおり高次振動にまで拡張することが可能と考えられ、地震外力をも含めた外力に対する応答の測定についても精度検証を経て拡張していく予定である。測定網を構成する計測拠点において、予定よりも物品費のうち安く手に入るものがあったため、75006円の残額が生じた。残額は下記の次年度使用計画と併せて執行する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度構築した仮想(ヴァーチャル)基準点データの作成手法を用いて,実際にヴァーチャルな基準点データを作成し,その精度検証を行う。精度検証の方法として,都心部の建物(新宿地区1センサー、千代田地区2センサー)に精度検証用に設置した計測点アンテナ付近にヴァーチャルな基準点基地を作成する。精度検証用のアンテナを加振器に設置し,正弦波加振等を行うことで,ヴァーチャルな基準点データを用いて計測した変位記録の精度をあきらかにしていく。このプロセスにより見つかった問題点を解決することを経て,国土地理院の電子基準点のデータおよび独自で設けた基準点アンテナ網のデータの両方を用いて,任意の計測点付近のヴァーチャルな基準点データを精度良く発生させることが可能となる。ヴァーチャルな基準点データの作成手法は前年度に検討を行った手法を用いて行い,それに必要となる複数の基準点データは国土地理院のデータと独自のアンテナ網のうち,計測環境が良く,計測点に近い複数のアンテナが自動的に選択されてヴァーチャルな基準点データの作成を行うようなシステムを構築する。加えて,高精度のヴァーチャルな基準点データを作成することで,計測点と基準点の距離をほぼゼロとして計測することが可能となり,GPSを用いた変位応答計測精度の飛躍的な向上を望むことが出来るとともに高周波数でのデータ取得が可能となり、本システムの分析範囲が広くなる。独自のアンテナ網を設置・維持するために、また、各段階での精度検証を行うための品目に対して研究費は使用されることとなるであろう。
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