研究課題/領域番号 |
23760536
|
研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
貞末 和史 広島工業大学, 工学部, 准教授 (20401573)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | コンクリート構造 / 耐震補強 / あと施工アンカー |
研究概要 |
本研究に関連する既往文献の調査を行ない検討した結果,申請者らが開発を進める「傾斜型あと施工アンカー」がせん断力を受ける場合に予測される破壊モードは,「アンカー筋の降伏」,「アンカー筋の付着割裂破壊」,「コンクリートのコーン状破壊」,「コンクリートの支圧破壊」に分類されると予測される。 上述した予測に基づき,平成23年度は,コンクリート躯体施工面への垂線に対してアンカー筋を傾斜させて固着した接着系あと施工アンカーについて,アンカー筋が材軸方向に引張力を受けてコンクリートがコーン状破壊を生じる場合の破壊メカニズムについて検討するための構造実験を行なった。実験変数は,コンクリートのコーン状破壊強度に影響を与えると考えられる,アンカー筋の傾斜角度,アンカー筋の径,アンカー筋の固着長さ,アンカー筋の端あき距離,コンクリート強度として,これらの組み合わせによって合計30条件×3本(同一条件下で各3本)の実験を行なった。この実験結果に理論的考察を加え,コンクリートのコーン状破壊は,破壊形状によって4種類に分類できることを明らかにした。さらに,コンクリートのコーン状破壊形状をモデル化した最大強度の評価式を構築し,構築した評価式は実験結果を極めて精度よく評価できることを確認した。 一方,交付申請書を作成した研究計画立案当初,せん断力を受ける傾斜型あと施工アンカーがコンクリートの支圧破壊を生じる場合の破壊モードに関しては,既往の研究を参考にして強度評価式を構築することが可能であると推測していた。しかしながら,アンカー筋の傾斜角度の変化による影響を考慮した合理的な強度評価式を構築するには,構造実験を行なって検証することが必要となったため,平成23年度は,コンクリートがコーン状破壊を生じる場合の実験に加えて,さらに,コンクリートが支圧破壊を生じる場合の実験データの収集を行なった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の1つは,「在来型あと施工アンカー」に対して,「傾斜型あと施工アンカー」を有効的に適用する方法を明らかにすることである。せん断力を受ける傾斜型あと施工アンカーに予測される破壊モードは,「アンカー筋の降伏」,「アンカー筋の付着割裂破壊」,「コンクリートのコーン状破壊」,「コンクリートの支圧破壊」に分類されるという予測を立てており,アンカー筋の降伏が先行する場合に,傾斜型あと施工アンカーの有効性が得られると推測される。そのためには,傾斜型あと施工アンカーがせん断力を受ける場合の最大強度の評価式を構築することが必要である。 平成23年度は,主として,コンクリートのコーン状破壊に着目した実験的検討,理論的検討を行なった。実験を補間する目的で,有限要素解析による検討も計画していたが,実験結果に基づく検討によって,コーン状破壊発生のメカニズムを明確にすることができ,コンクリートがコーン状破壊を生じる場合の最大強度の評価式を提案するに至っている。 アンカー筋の降伏が先行する場合の最大強度に関しては,既に評価式の提案と実験による検証が完了しており,アンカー筋が付着割裂破壊を生じる場合に関しても,既往の評価式を用いて最大強度を評価することが可能であると推測される。一方,コンクリートが支圧破壊を生じる場合に関しては,最大強度の評価式を提案するに至っていないため,平成24年度以降に引き続き検討する必要がある。 本研究の2つめの目的は,傾斜型あと施工アンカーを用いた耐震補強工法の開発と耐震性能の評価方法を構築することである。耐震補強工法の開発に関しては,枠付き鉄骨ブレース補強工法,増設RC壁補強工法,増設RC袖壁補強工法などへ傾斜型あと施工アンカーを適用することを考案している。耐震性能の評価方法の構築に関しては,未着手であり,研究計画に従って平成24年度以降に実施する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,傾斜型あと施工アンカーがせん断力を受けてコンクリートが支圧破壊を生じる場合の最大強度評価式の構築に取り組む。平成23年度に遂行した研究によって,コンクリートが支圧破壊を生じる場合の実験データの収集は完了している。平成24年度はコンクリートの支圧破壊強度に影響を与えると考えられる,アンカー筋の傾斜角度と径等を解析変数とした有限要素解析を行なって,これらの変数が支圧応力の分布形状に与える影響を明らかにする。実験結果の分析に有限要素解析による理論的な検討を加えて,コンクリートが支圧破壊を生じる場合の最大強度の評価式を提案する。 さらに,平成24年度は,せん断力を受ける既存躯体と補強要素の接合部のひとつとして,コンクリート系構造建物に対する枠付き鉄骨ブレース補強における間接接合部を対象としたせん断強度の評価式を構築する。間接接合部における傾斜型あと施工アンカーは,平行配列と交差配列の適用を考えている。平行配列の場合は,アンカー筋が引張力を受ける方向にせん断力が作用する時と圧縮力を受ける方向にせん断力が作用する時で最大強度が異なり,交差配列の場合は,いずれの方向においても最大強度はほぼ等しくなることが,申請者らが行なった既往の研究で明らかにされている。また,交差配列の場合の最大強度と比較して,平行配列でアンカー筋が引張力を受ける方向にせん断力が作用する場合の最大強度は極めて大きくなることも明らかにされている。本研究では,せん断力が一方向のみに卓越する接合部への適用も視野へ入れて,傾斜型あと施工アンカーが交差配列および平行配列された間接接合部のせん断実験と有限要素解析を行い,複数本のあと施工アンカーが同時に軸方向力(引張・圧縮)とせん断力の複合応力を受ける場合のコンクリートの破壊メカニズムについて検討した後,破壊モードに応じた実用的なせん断強度評価式を提案する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究における研究経費の使用は,実験実施が多くの部分を占める。消耗品は,鉄筋やコンクリートのひずみ度を計測するひずみゲージが必要となる。また,試験体製作費は,生コン代,鉄筋および加工代,型枠制作費などとして必要となる。 有限要素解析は,市販の解析プログラムを用いた解析を行なうことを計画しており,解析プログラムの購入・保守費として研究経費を使用することを計画している。 また,平成23年度に行なった研究の成果について,国内で開かれる学術講演会で発表するための旅費と論文掲載料として研究経費を使用する。さらに,平成23年9月にポルトガルで開催される世界地震工学会議に参加して,本研究に関連する研究の情報収集を行なうための旅費として研究経費を使用することを計画している。
|