建築物の耐火設計では、火災時における部分架構・部材の崩壊温度を終局耐力に基づき推定している。一般的な設計では、火災時の構造体の崩壊に対する安全性については検討するが、火災後の再使用性までは検討しておらず、火災後の損傷等を設計段階で想定していない。本研究では、火災後における構造体の機能維持・再使用性と損傷の関係に着目し、火災時の加熱冷却過程における鋼架構の力学的挙動を分析し、損傷の程度を定量化することを目的とした。以下の通り、火災時の架構の加熱冷却過程における残留変形・残留応力、火災後の地震時における架構の構造特性、残留応力の解放メカニズム、火災時に構造体に生じる変形と構造部材・非構造部材の接合部破断などによる損傷や脱落等の関係が明らかとなり、耐火設計時における火災後の損傷状況を把握できるようになった。 (1)火災時・冷却時の架構の応力:外側スパン火災、内側スパン火災、全スパン火災時等の梁の最大応力と冷却後の残留応力の関係から、外側スパンよりも内側スパンの梁の方が残留応力が大きく、加熱範囲が大きく、最高履歴温度が高いほど、残留応力も大きくなる。(2)火災後地震時の架構の層剛性:水平力に対する火災後の架構の層剛性は、加熱温度の上昇および加熱範囲の拡大に応じて低下する。残留応力が大きい部材が多いほど水平加力時に塑性化が生じ易いため、水平剛性が低下しやすいが耐力は大きく低下しない。 (3)火災後の残留応力解放方法:架構の残留応力の解放を目的として、梁の中央部分を局部的に再加熱することにより、再加熱部分が局所的に塑性することにより応力が解放され、火災後に比べて1/3程度に残留応力を低減させることができる。 (4)火災時の構造体の変形による部材の損傷状況:火災時に梁が傾くような変形が生じると構造部材・非構造部材へ損傷、破断を誘発しやすく、一部の非構造部材は落下高さの1/3まで飛散する。
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