研究課題/領域番号 |
23760542
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研究機関 | 飛島建設株式会社技術研究所 |
研究代表者 |
高瀬 裕也 飛島建設株式会社技術研究所, -, 副主任研究員 (30515911)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | あと施工アンカー / ダウエル効果 / シヤキー / 支圧応力 / 耐震補強 / 接合部 |
研究概要 |
本研究では耐震補強の促進に寄与するため,引張力を受けながらも高いせん断耐力を期待できる,「アンカーボルト併用型鋼製シヤキー(以下,本接合要素と記述する)」を開発することが主たる目的であり,その開発過程において,複合応力を受ける本接合要素の力学モデルの構築,およびこの支圧応力場の実験的解明を実施することとしている。今年度(H23)は,(1)本接合要素の力学モデルの基礎となるあと施工アンカーの力学モデル(ダウエルモデル),および(2)このダウエルモデルを拡張した本接合要素の力学モデル(プロトタイプモデル)の構築,(3)水平/鉛直の両方向から任意の複合応力を接合要素に与えることが可能な実験装置(この実験を"単体複合応力実験"と呼ぶ)の計画を行った。 本研究で開発したあと施工アンカーのダウエルモデル(現状では,せん断力のみが作用する場合が対象である)は,アンカー筋のコンクリート表層部における支圧抵抗,塑性ヒンジ点での曲げ抵抗,およびアンカー筋自体の伸びによる引張応力のせん断成分の,3つの応力成分を組み合わせ構成されたものである。さらに,増設側の変形挙動を考慮できる解析手法も開発した。このモデルにより,既往の論文で報告されているあと施工アンカーのせん断実験の結果を,良好な精度で再現できることを明らかにした。このダウエルモデルの中で,コンクリート表層部の支圧抵抗要素を鋼製ディスク用に改良し,本接合要素のプロトタイプモデルを開発した。 また実験計画では,水平方向に油圧ジャッキを,鉛直方向にサーボポンプ式の油圧シリンダーを配置した実験装置を立案した。鉛直方向にサーボポンプ式の油圧ジャッキを用いたのは,せん断荷重/せん断変位の値に応じ,鉛直方向の荷重/変位を任意に自動制御できるように配慮したためである。加えて,制御プログラミングソフト"LabVIEW"を用いて,本実験用の制御プログラムを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
力学モデルの基礎モデル(あと施工アンカーのダウエルモデル),および本接合要素のプロトタイプモデルを構築したこと,実験装置を立案したことは当初予定通りである。ダウエルモデルに関する論文として,日本コンクリート工学会の年次論文集(採用決定)と日本建築学会の構造系論文集(査読中)の,2つの査読付き論文集に投稿できた点は,予定よりも順調に研究が進んでいる。 ただし,単体複合応力実験は今年度実施する予定であったが,この実験における鉛直加力用のジャッキについて,実験協力者(北海道職業能力開発大学校・和田俊良先生,東京工業大学・篠原保二先生)と打合せを重ね,当初計画していたスクリュージャッキよりも,油圧シリンダーの方が載荷速度が速く,接合面の複雑な挙動に臨機に対応できる可能性が高いと判断したことから,実験装置のプランを変更した。その結果,新たな機器の選定に時間を要したため,複合応力実験を次年度に行うこととした。 以上より,当初計画より順調に進んだ部分もあれば,遅れが生じている部分もあるが,おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度(H23)立案した実験装置を実際に組み立て,予備実験を行い実験精度を検証した上で単体複合応力実験を行い,支圧応力場の解明を試みる。この実験では,本接合要素だけでなく,一般工法と比較するためにあと施工アンカーも対象とする。 加えて,今年度開発したあと施工アンカーのダウエルモデルを,引張力とせん断力が同時に作用する場合の力学挙動も再現可能なモデルに改良する。その上で,本接合要素に対しても複合応力が作用する際の力学挙動を追跡可能なように発展させる。 また,本接合要素の力学モデルが完成した後には,引張応力を考慮したせん断耐力式の構築を行う。なお,当初計画では最終実験として,架構実験を行い保有水平耐力の検討を行うこととしていたが,単体複合応力実験の結果を睨みながら,より多くの実験パラメータによる要素実験の結果を蓄積した方が,本研究の発展に有用であると判断した場合には,架構実験を中止し要素実験に変更する可能性がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度(H24)に使用する研究費の内訳は以下の通りである。 単体複合応力実験の加力装置に用いるサーボポンプ式油圧シリンダーの購入に800千円を要する。同様に加力冶具の製作に300千円を要する。また試験体の製作に700千円(消耗品含む)を要する。実験に係わる謝金として500千円を必要とする。 関連する論文発表として,ポルトガルのLisbonで開催される 15th World Conference of Earthquake Engineering(WCEE)への登載費用および出張費用として300千円,スペインのToledoで開催される 8th Fracture Mechanism of Concrete Structures(FRAMCOS)への登載費用および出張費用として300千円,その他論文登載費用(コンクリート工学会の年次論文集,日本建築学会構造系論文集など)として140千円を要する。打合せなどの旅費として50千円を要する。 また翌年度以降(H25)には,追加実験(試験体製作および謝金等)に200千円,論文登載費用として200千円(コンクリート工学会の年次論文集,日本建築学会構造系論文集など)を使用する予定である。
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