新型インフルエンザをはじめとした感染症の流行の際には、患者を診察する医療従事者への感染が大きな問題となる。医療従事者は、診察・治療のため患者付近の汚染濃度の高い領域に曝露される。特に患者の咳やくしゃみによるウイルスの飛散は医療従事者にとって大きな脅威である。また、このような場合には、診療体制にも支障が出ることが予想されており、安全性が確保された感染対策診療施設を必要数確保するためにも、感染への対策が急務となっている。以上のような社会的背景を受け、医学分野のみならず、建築・設備の観点からの感染症対策が重要であると考えられる。本研究では、医療福祉施設における感染症リスクを低減する建築・設備を提案することを目的とし、科学的根拠に基づいた感染リスク評価手法の提案を行う。 昨年度までの研究で、模擬咳気流発生装置を用いて咳気流を発生させた感染リスク評価実験を行った。また、診察室や病室における診療中の医療従事者や患者の動作範囲を測定を行い、診察室での汚染物質の発生状況及び対策が必要な場所を明確にした。 今年度は、感染症患者から発生した汚染物質(ウイルスなど)を含む咳気流の空間性状の詳細な把握、他条件検証が可能な再現モデルの作成を目的とし、前年までに実施した実験を再現する気流流体解析(CFD)を行った。境界条件として、模擬咳気流発生装置開発時に測定した咳データ(咳流量、気流速度など)を入力した。 また、医療福祉施設における感染症リスクを評価する評価式を提案した。この式に上記の実験、実測、解析などで得られた結果を代入することで、患者の咳による汚染物質(ウイルス)濃度と、診察室内での人の動きを考慮した感染リスク評価を行うことが可能になった。
|