犯罪予防とは,犯罪の低減および犯罪への人々の不安(犯罪不安)の軽減を意図した計画的な試み全般を意味する.都市計画は,欧米では1960年代から有力な犯罪予防の一手段になりうるものと位置づけられ,多くの実証研究が蓄積されてきた.都市計画は,都市における道路網の配置や土地利用,人口分布や人々の活動などに対し,直接・間接的に介入するものである.したがって,都市計画が犯罪予防に対して効果的に寄与するためには,都市計画が介入対象とする都市の諸変数の変化が,そこで発生する犯罪の量や分布,質の変化に対し,どのようなメカニズムでどのように影響するのかという,環境-犯罪間の動的な関係性の理解が不可欠である. ここで,わが国における最近の刑法犯認知件数の時系列変化に着目すると,総じて,減少傾向にある.しかし,そうした減少はすべての場所で一様に生じているわけではない.ある地域全体が減少傾向にあったとしても,地区レベルでの時系列変化にはばらつきが存在するものと考えられる.本年度はこうした問題意識のもと,東京23区の住宅対象侵入窃盗を事例に,既存研究で明らかでなかった,地区レベルでの犯罪の時系列変化と地区の社会経済的,物理環境的な特徴との関連について,潜在成長曲線モデルを用いて検討した. 研究の結果,地区の犯罪の時系列変化を規定する潜在成長曲線は一次関数で表現されること,潜在成長曲線は地区ごとにばらついていること,社会解体論,日常活動理論,防犯環境設計論から想定される各地区の社会経済的,物理環境的な特徴が,潜在成長曲線の軌跡形状に関連していることを示した.結果をもとに,地区レベルでの犯罪のコンテクストを読み込んだうえでの対応の必要性をを示し,特に,アクセスが容易な低層密集住宅地,新興住宅地,日中に人の目が少ない地区において,今後地区レベルでの介入が求められることを議論した.
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