研究課題/領域番号 |
23760584
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研究機関 | 岡山県立大学 |
研究代表者 |
熊澤 貴之 岡山県立大学, デザイン学部, 講師 (30364102)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 景観保全 / 合意形成 / 都市景観保全 / 都市環境保全 / 住民参加 / 景観審査会 / デザイン審査会 |
研究概要 |
本年度は,まず,都市景観保全活動が実施されている先端的な取組として,英国ハムステッド・ガーデンサバーブにおける都市景観保全の方法を調査した.その結果,歴史的環境の保全を支える要因は,独立した活動組織であること,トラストによる独自の調査分析機能とデザイン審査機能を持つこと,RAによるメディエーターとしての機能であることが明らかにされた.トラストは独自の調査分析機能とデザイン審査機能を持ち,開発計画や増改築計画に対抗していたが,トラストの効果的な活動にはRAが住民とトラストを結ぶメディエーターとしての役割が鍵であった.住民のボランティアによるRAが,歴史的景観保全活動に取り組むトラストの活動をわかりやすく伝達することで,市民とトラストとの関係を緩やかに繋ぎ,これが住民とトラストの相互理解につながり,さらには,トラストの都市景観保全活動に対する住民の合意形成を図っていることが把握された. 次に,景観デザイン審査会に導入するための評価システムを開発した.現在,デザイン審査会は景観の質を向上させる弾力的な制度として期待が高いが,評価者が個々のデザインをどのように評価したのかは不明であるため,判断根拠が不明確であるという欠点を持つ.また,個人の景観評価項目は考慮されていないため,評価者の個人差が十分に加味されているとは言えない.そこで,個人の景観評価構造に配慮しながら,影響要因の予測手法を開発した.その結果,個人の評価構造に応じた影響評価項目を抽出し,分類及び選抜できることを確認した.これらの知見により,評価者の個人差を加味した景観評価手法を開発し,実験的に活用することで,定量的に個人差を加味した影響予測をすることが可能であることを示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我が国では都市景観を保全するためのデザイン審査の機能は,行政機関による諮問先として設置された都市景観審議会で実施されてきた.行政機関に従属しない独立組織がデザイン審査の機能を効果的に運用している事例はない.そこで,都市景観保全活動が実施されている先端的な取組として,英国ハムステッド・ガーデンサバーブにおける都市景観保全の方法を調査した.英国ハムステッド・ガーデンサバーブ(HGS)のトラストは特定の行政機関や民間組織の影響を受けることなく,コミュニティに根差した独立組織としてデザイン審査を実施し,歴史的景観の保全に寄与してきた.これを法的に可能にしてきた背景にトラストが地元の行政機関であるバーネット区と同等にHGS内における建築物の新築・修繕・建替え等に関しては計画を許認可する権限を持っているからである.トラストの活動は100年以上の非常に長い歴史を持ち,HGSの住民によって実施されてきた自治の内容と深く結びついている. このような事例を調査し,実態を把握できたため,順調に進展していると考えている. さらに,合意形成につながるための住民参加の方法として,個人の評価構造を加味した評価システムを開発して,実験を行った.このように,世界における先端モデルの調査と新しいモデル構築に向けた有効な評価モデルの開発実験を実施できたため,本年度は順調に進展していると言えるだろう.
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今後の研究の推進方策 |
都市景観保全活動が実施されている先端的な取組みを詳しく調査する予定である.調査には先端的な取り組みを行っている方から直接ヒアリングするとともに,市民がそれらの取り組みをどのように評価しているかを抽出して行く予定である.また自治体はどのように関与しているかも同時に調査して行く予定である. さらに,景観デザインを審査する場面に,住民参加の方法として個人の評価構造を加味した評価方法が導入できるかを,実験によって有効性を検討していく予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
まず,デザイン審査会を実施している先端事例を調査し,関係者よりヒアリングすることで実態を把握する.そのため渡航費や記録するための機材,書籍や関連資料の収集費用が必要となる. また,合意形成に向けた評価システムを加味した住民参加方法を構築するため,シミュレーション実験を行う. 以上を実施するために研究費を執行する予定である.
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