研究課題/領域番号 |
23760598
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研究機関 | 豊田工業高等専門学校 |
研究代表者 |
加藤 悠介 豊田工業高等専門学校, 建築学科, 講師 (80455138)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アクションリサーチ / 福祉施設 / 児童養護施設 / デイサービスセンター / 老人保健施設 |
研究概要 |
本研究では、開設後に地域になじむ過程にあるデイサービスセンター(以下、DSと略す)、設立後10年以上経って様々な環境的試行を実践している時期にある老人保健施設(以下、老健と略す)、移転・建て替えをして生活を再構築する時期にある児童養護施設の3つの福祉施設において、計画研究者とスタッフが協働してアクションリサーチを実践し、それぞれの現場に応じて、生活の質(以下、QOLと略す)の向上に寄与するケア環境を実現するような環境診療の方法を確立することを目的としている。 平成23年度はDSおよび児童養護施設における調査研究を中心に実施した。 DSでは福祉施設が将来的に地域社会の中心的役割を担うことを想定した上で、平成23年5月の開設時から6ヶ月間にわたり継続的な調査を行った。具体的には、スタッフに依頼してDSを訪れた人の属性や目的、滞在時間などを記録した。その結果、地域住民のDSへの訪問回数は徐々に増加し、そのなかでもボランティアが定期的に1人で来て、デイルームの隣の小さな空間で高齢者と1対1の対応をすることが重要であることがわかった。一方で、地域とDSをつなぐために計画された喫茶スペースや広いデッキの利用は少なく、利用方法を議論する必要があることもわかった。 児童養護施設では、移転・建て替え前後の共用空間におけるスタッフのケア行動の変化を行動観察調査にもとづいて分析した。その結果、移転後にケア行動が多様になり、これには居住ユニットごとに家庭的な設えをもつ小さな共用空間が廊下に沿って配置されたことが影響していることが明らかになった。また、子どもの滞在様態が不安定で落ち着きにくい共用空間もあり、居場所となるような環境的工夫が必要であることがわかった。 平成23年度は、福祉施設における環境診療の手法の確立につながる基礎的な知見を得ることができたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、3つの福祉施設においてアクションリサーチを実践し、それぞれの現場の状況に応じてQOL向上に寄与する環境診療の手法を確立することである。 平成23年度は対象の3施設のうち、2施設(DSと児童養護施設)において調査を開始した。DSでは開設後の6ヶ月間の動向を調べることで、地域へのなじみに関する現状の問題点を把握することができた。また、児童養護施設では移転前後の子どもとスタッフの行動観察調査を行うことで、子どもが生活を再構築するにあたり、有効な空間的特性と課題を整理できた。これらの知見が得られたことで、環境診療の手法の確立に向けて、平成24年度の調査研究の内容を設定しやすくなった。 一方、環境的工夫を試行錯誤している老健を対象とした調査は開始することができなかった。これは、対象施設での人員配置の変更などがあり、日程調整などが難しかったためである。しかし、現在は調整を進め、平成24年度の調査計画を相談している。 以上のことから、本研究は当初の予定に対しておおむね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
3つの福祉施設(DS、老健、児童養護施設)における平成24年度の研究の推進方策を以下に示す。大きな方向性としては、それぞれの施設のスタッフと現状の問題点について議論し、新しい実践に移すことを設定している。 DSにおいては、利用頻度の少ない喫茶スペースや広いデッキについて、DSのスタッフや喫茶スペースを利用する予定のNPO法人の運営者、そして地域住民を対象に、利用目的や実態についてのヒアリング調査を行う。そして、それぞれの立場と意識の違いを把握した上で、利用方法や実践可能な環境的工夫を議論する予定である。 老健においては、スタッフによる家具や小物レベルの環境的工夫を収集整理する。それらをもとに、QOL向上に寄与するとともに、様々な状況の環境診療に汎用できるデータベースの作成準備をする予定である。 児童養護施設では、子どもが落ち着きにくい共用空間において、居場所となるような環境づくりを行う。具体的には、共用空間に関するワークショップを実施し、それにもとづいて家具や小物などを追加する計画である。そして、行動観察調査と子どもへのヒアリング調査を実施して、環境づくりの評価を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の調査研究を実施するにあたり、研究費を、(1)研究関連資料の購入、(2)環境づくりデータベースを作成する機器やソフトウエアの購入、(3)児童養護施設でのワークショップに必要な材料の購入、(4)先進的な福祉施設への見学や福祉施設の動向に関する研修への参加に伴う旅費、(5)調査協力者への謝金などに使用する計画である。なお、申請当時に設定した予定から大きな変更はない。
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