平成25年度は本研究調査で得た情報をもとにいくつかの研究成果を提出した。概略は以下の通り。 1)「中世日本の付書院と山水――東アジア海域にみる山水受容と建築」:日本中世の住宅・寺院にみる建具・家具・道具とその情報が、東アジアのなかでどのように流通したのか、付書院に着目し検討した。付書院は読み書きの場や唐物を飾る場としてはもちろん、庭園や盆栽、自然を描いた屏風など〈山水〉をモチーフとした模造品が内外で鑑賞できるよう取り合わせられていた。この技法は当時の知識人の住宅においても踏襲され、付書院は建築と〈山水〉とを繋ぐ蝶番の一種として、座敷飾の重要な要素としてデザインされていたのである。他方で中国絵画の代表例を通観すると、山水に隣接した建物の内部において風流韻事となる琴棋書画を嗜む場面を多々散見することができ、とくに琴・棋・書の場面が確認できることに特徴がみられる。そして日本の事例以上に、堆い場に立てられた亭や水上の亭から外部の〈山水〉を眺める場面が数多く認められた。 2)「中世禅院の仏殿とその機能・構造・意匠――鎌倉期五山の事例を中心に」:鎌倉期に造営された五山仏殿を中心に、王法や世法を接化するための具体的な建築的工夫が日本でどのように結実したのか。紙幅の関係から平面の検討結果のみ以下に示そう。禅院を興した百丈は仏殿の存在を認めていなかったが、仏殿は日本の五山で造営され、追善供養や祈祷といった檀越のための儀礼会場としても使用された。そして職位別・儀礼別の使い分けのため「上間」と「下間」という平面に分節され、柱を巧みに移動させ屋根荷重をコントロールする架構が用いられた。仏法の王法・世法への態度のあらわれが、この機能と構造の工夫に表出したと考えられる。遺構をみる限りこの平面形式は、中世の日本に禅宗をもたらした南宋代の江南地方に存在するものより以前に、北宋代の華北地方で類例が実現していた。
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