本研究は、15世紀頃からはじまる大航海時代から現在に至る華南海域の港湾都市を対象として、海域を通じた交流を視野に入れながら、各港湾都市の成立、変容、再編の過程を建築史・都市史の観点から明らかにするとともに、空間形成に見られる通時代的な特質および都市相互の影響を総体的に解明することにある。具体的には、①華南海域の港湾都市の空間的特質、②租界の形成と既存の都市空間との関係、③民国期の都市改造の実施過程と都市ごとの相違、④新中国設立以降の都市政策と近年の都市再生、を明らかにすることを目的としている。 平成25年度は、上記①・②・③を明らかにするための史料として、アメリカの国立公文書館やハーバード大学燕京図書館に収蔵される、19世紀以降の中国における租借地と関係する公文書や地図の閲覧ならびに写真撮影を実施した。とりわけ、土地建物の取引の際に作成された土地契約文書の蒐集に努めた。土地契約文書は、18世紀から19世紀にかけて当該国や当該国民が租借した土地に限られるが、これらの文書にはそれまでの一連の土地取引に関する証書が付されるのが慣例であるため、土地建物の来歴を探ることが可能である。これまでに蒐集した土地契約文書をもとに、厦門を中心として①・②・③の考察を進めた。 また、④については、中国国内において近年刊行されつつある、建国以降の建築・都市を扱った論文や書籍から新中国設立以降の都市建設の状況を把握するとともに、華南における都市再生の動向を整理し、歴史的な空間形成と近年の都市整備との関係性を、①・②・③を踏まえながら考察した。
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