研究課題/領域番号 |
23760610
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
奥田 耕一郎 早稲田大学, 文学学術院, 講師 (50454103)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 建築史・意匠 / 近代建築史 / 全国ドーポラヴォーロ事業団 / ドーポラヴォーロ / ファシズム / イタリア |
研究概要 |
本研究は、ファシズム期イタリアにおいて国民の余暇を組織した全国ドーポラヴォーロ事業団(以下O.N.D.)の建築関連の施策・活動と、国民住宅公団(以下ICP)の活動を明らかにしつつ、ファシズム体制下の市民生活を体制の理想と実際に営まれた生活との二方向から複合的に分析するものである。平成23年度においては、研究実施計画に挙げた3項目について調査・研究を推進した。具体的には次の通りである。 1)1910~30年代におけるミラノのICP住宅をめぐる状況について、ICPミラノ支局が中間層向けの分譲住宅を都心外縁に建設すると同時に、労働者向けの狭小な集合住宅をさらにその郊外に建設していたことなどを確認した。これは1928年から国策として推進された、都市の集中化に反対するキャンペーンが重要な背景のひとつとなっており、全国的に国民の居住地を社会階層別に固定化する政策の一環として分析を試みた。 2)1928年から1929年にかけて全国規模で行われたO.N.D.の家具コンクールについて、その実施経緯、審査結果、実態などを詳細に明らかにし、日本建築学会計画系論文集に発表した。これはこの家具コンクールにおける体制側の意図をはじめて包括的に明らかにしたものである。また、このほかのO.N.D.による労働者の住環境改善施策については、1930年と1933年にO.N.D.が発表した2つのモデル住宅について研究を行い、その両者の相違点にICPの活動を含めた当時の体制による住宅整備方針の転換を見出した。 3)O.N.D.によるドーポラヴォーロ活動施設の事例収集も進め、特にヴェルチェッリ県ドーポラヴォーロについては所在地を特定、現存を確認し、現況調査を行った。これはその規模の大きさ、余暇機能の豊富さなどから、従来具体的には未知であった同施設の特徴を理解する上で最も重要な施設のひとつであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究は、「研究実績の概要」に記したよう、計画に従ってほぼ予定通り進行したといえる。 一方、研究の実施において収集が十分でない情報・データ等ももちろんあり、ICP住宅の図面資料、住宅市場の成立過程に関連する資料などがこれにあたるが、これらの不足情報は当該年度内に一定の整理を完了している。この状況は研究開始の時点で予測されたものであり、次年度の当初計画にあるようこれを24年度において追加収集していく。 また、当初計画以上に進展した部分もあり、特にヴェルチェッリの県ドーポラヴォーロ施設については、現存を確認し現地調査によって現況が確認でき、当該年度の重要な成果のひとつであったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進展しており、平成24年度の研究は、交付申請時の計画に基づいて推進する。 具体的には、前年度不足の情報を収集するとともに、O.N.D.およびICPに関連する資料の収集を継続・推進し、特定の地域における生活の実像を本研究の視点により分析していく。 この対象となる特定の地域としては、ミラノを中心にイタリア北部の諸都市を候補としていたが、都市の規模によってO.N.D.の活動に相違があり、当該年度の調査からは、ミラノなどの余暇機会にめぐまれた大都市は全体の中ではむしろ例外的な状況にあったと考えることができる。 このような状況において、ヴェルチェッリ(現ピエモンテ州)は、ファシズム体制下の1926年に新設された県の県都であること、O.N.D.側より「1937年において最も贅沢で完全な支部」と宣伝されたドーポラヴォーロ施設を有したことと、さらにそれが現存することから、とりわけて注目されるところであり、ヴェルチェッリ市当局と調整のうえ、さらなる調査を推進する。
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次年度の研究費の使用計画 |
交付申請時の計画に従い、平成23年度同様、主として現地調査費用として使用し、この調査中に集中して資料の収集を実施するとともに、建築物の実地調査を行う。 これに先んじて国内でも研究推進に必要な図書資料を収集することとなるが、当時のO.N.D.による定期刊行物を中心とした一次資料の一部は国内からも入手可能であることを確認しており、この入手の経費として次年度研究費を使用する。 またデータ蓄積・保守等のための機器類は不可欠であり、これの購入にも使用する。さらに、23年度からの研究結果が蓄積され、総合化される次年度においては、その成果の発信を昨年度以上に行う計画であり、このための報告費用として使用する。
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