平成27年度は、本研究課題の公開普及のため、書籍の執筆出版に努めた。その結果、2016年2月に『図説 長崎の教会堂 風景のなかの建築』(河出書房新社、鹿児島大学教授木方十根氏と共著)を出版することができ、同年8月には『鉄川与助の大工道具』(長崎文献社、単著)が出版予定(確定)である。 2016年は当初、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」がユネスコの世界遺産登録への推薦が確実視されていた。しかし、ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)の中間報告において、内容の見直しが指摘され、2018年以降に推薦が見送られることになった。本研究は、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の世界遺産登録推薦の一助となることを願って取り組んだものであり、推薦の見送りは残念であった。しかし、鉄川与助大工道具に含まれるフランス製鉋などが長崎歴史文化博物館の展覧会『「信徒発見」150周年記念事業、世界遺産推薦記念特別展、聖母が見守った奇跡』(2015年2~4月)で展覧され、その後フランスに里帰りして現地での世界遺産登録PR活動で展示されるなど、本研究の成果が広く認知されつつあることを実感した。5年間にわたる最終年として、充分な成果が得られたと考えている。 鉄川与助の大工道具にヨーロッパ初のカタログ通販会社の鉋が含まれることは、パリ外国宣教会のアジアでの活動がこのような通販システムによって下支えされていたことを示唆する。この点については、2016年度から基盤研究C「パリ外国宣教会がもたらした道具・技術に関する研究:宣教師による教会堂建設の再評価」の中で明らかにしていく計画である。
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