研究課題/領域番号 |
23760619
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
柏本 史郎 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60329852)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 準結晶 / sp電子系 / 電気抵抗 / 金属-絶縁体転移 |
研究概要 |
内容:当該年度は主に1)試料作製・評価、2)物性測定装置整備の2点である。1)では新しい合金系とこれまで準結晶形成の報告があるものの形成条件が不明な合金系も含め10種類以上の組成で正二十面体準結晶の探索を試みた。また最近石政等によって構造と形成条件が報告された正十二角形準結晶(dd相)の近似結晶も扱った。結果として新規の準結晶をAg-Ga基とAg-Sn基合金で確認したが、構造安定性・単相試料の形成条件等については引き続き調査中である。2)では新たに導入したTMP排気装置とナノボルトメータを現有の極低温冷凍機に組込み、効率の良い高精度な電気抵抗測定を可能にした。この装置も用い、dd相の近似結晶であるMn-Si-Cr合金の電気抵抗、磁性などの物性測定も行った。IV族のSiを含んでいるものの電気抵抗特性は金属的であったが、磁性においてdd相及びその近似結晶では初めてスピングラス転移を見いだした。意義: IIIb及びIV族のsp電子系元素を含む新たな準結晶・近似結晶相を発見しただけではなく、Hume-Rothery則に基づいた準結晶形成の置換則を利用しての新規準結晶の探索・形成条件についても知見が広がった。本来の目的である準結晶構造における金属-絶縁体転移の実現には至っていないが、dd相はこれまで種々の物性測定が可能なバルク状試料がなかったため、Mn-Si-Cr近似結晶でスピングラス転移が確認されたことは準周期性における磁気秩序の観点から興味深い結果が得られたと考える。重要性:これまで可能性を感じながら試みていなかった複数の合金系で準結晶探索が実施できた。現時点で新規準結晶が見つかったのは二つの合金系にとどまるが、近似結晶のみ確認された系もあり、今後更なる合金系での準結晶発見により金属-絶縁体転移以外の様々な物性も期待され、準結晶の実用材料としての可能性を広げるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究のための整備面では効率良く高精度な低温物性測定を実施するための極低温冷凍機を用いた測定システムの構築がほぼ終了した。今回の改良点はTMP排気装置とクリスタルイオンゲージを装備した広域真空計を組み込むことにより測定中の手動操作が不要となり、新たに書き直した測定用プログラムによる自動制御で24時間態勢の測定が可能となった。試料作製については十数種類以上の合金系で準結晶・近似結晶の探索を行い、まだ単相試料としては得られていないものの2種類の合金系で新しく正二十面体準結晶を発見できた。初年度であるため広い範囲の合金系で探索を行ったことと、研究として緊急度の高いと判断した最近新たに構造と形成条件が報告された正十二角形準結晶系統まで手を広げたことにより、新しい準結晶で高抵抗を示すところまでは至っていないものの、他にも局所構造が準結晶と同じである近似結晶相が複数の合金系で確認できており、残り期間はこれらの合金系に集中することで今後目的に見合う十分な成果が得られると考えられる
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今後の研究の推進方策 |
新たに準結晶の存在が確認された合金系において、引き続き物性測定に必要な良質な準結晶試料の作製とその評価を行う。また、得られた単相試料に対して電気抵抗を中心とした物性測定を行う。試料作製に関しては新規に準結晶が含まれる合金系の状態図を作製し、可能と思われるものについては単結晶作製を行い物性測定に用いる。物性測定は当該年度に完成した極低温冷凍機を用いた測定システムを使用して電気抵抗測定を行い、磁性・比熱等については学内共同利用施設を活用しデータを得る。物性データは従来準結晶の電気抵抗特性の解釈に利用されてきた弱局在理論および電子間相互作用による解析も行う。これらの実験・解析結果を踏まえて、電気抵抗特性が金属ー絶縁体転移に推移する方向を見極める。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度に生じた次年度に使用する予定の研究費が生じた状況としては、当初の予定よりも所属研究室の電気炉のマシンタイムが確保できなかったため、急遽管状電気炉一台の導入を決めたことがある。したがって当該年度に生じた約62万円については、前述の管状電気炉およびそれにともなう消耗品の購入に充て、原材料の溶解・合金の合成、相安定性を調べるための焼鈍処理などに使用する予定である。
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