内容:今年度は1)試料作製、2)物性測定を中心に行った。1)その後、前年度に扱ったAg基合金系では準結晶の単相試料を得られなかったため、今年度新たにPd-Si基およびPd-Ge基合金中の準結晶探索を行い、準結晶関連物質である近似結晶の形成を確認した。この中で近似結晶の単相度が高い試料をPd48Ge36Yb16で得ることに成功した。不純物相の相同定もできておりGePd相のみがわずかに点在する数mmの試料が得られた。2)電気抵抗率は室温で~200μΩcmと低く、期待された金属-絶縁体転移に適した物質ではなかったが、磁化測定ではCurie-Weiss常磁性を示すことが分かり、Ybの平均電子価数として~2.7価が得られた。測定した複数の試料で同様の結果が得られ、この近似結晶相中のYbが常圧で2価と3価の価数揺動を生じていることが確認された。 意義:近似結晶が同型構造と考えられるAu-Al-Ybは常圧でYbの価数揺動が初めて報告された準結晶・近似結晶であり、これまでの準結晶研究では行われていなかった「重い電子系」物質としての量子臨界現象に関心が集まっている。Pd-Ge-Yb近似結晶が同様に価数揺動を示すという結果から、準結晶・近似結晶の電子物性が現代物理学のトピックスの一つである「強相関電子系」の舞台に上がったことを意味する。 重要性:これまで準結晶研究の中心はその特異な非周期構造にあり、一方物性に関しては準周期固有な性質は特にない状況であった。しかしながら最近見つかったAu-Al-Ybでは極低温において量子臨界状態に達するという可能性が準結晶のみに見いだされており、これは準周期性に基づく新しい物性として期待される。今回発見したPd-Ge-Yb近似結晶は同様にYbが常圧で価数揺動を示す準結晶関連物質として2例目であり、準周期構造における「重い電子系」の研究対象を広げる重要な結果と言える。
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