研究課題/領域番号 |
23760626
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
川本 直幸 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (70570753)
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キーワード | 透過電子顕微鏡法 / 電気計測 / 温度計測 / 熱電対 / ナノチューブ |
研究概要 |
透過電子顕微鏡(TEM)内における精密電気計測に向け、走査トンネル顕微鏡(STM)機能を搭載し、サブナノスケールで2本の微小探針が制御できる2探針STM-TEMホルダーを用いたTEM内微小電気計測手法およびその周辺技術の開発を進めた。 任意の試料位置の精密な電気計測を行うためには、平成23年度に開発した2本のナノ探針を所望の箇所に接触させ、定電流印加時の電圧降下を計測するいわゆる四端子法による計測が有効である。しかしながら、電子線照射時の帯電により2本の微小探針間、微小探針‐試料間との間で放電が生じ、意図しない過電流により試料が容易に破損することが平成23年度に明らかとなった。そこで、測定前に2探針STM-TEMホルダー内にある電気的に独立したすべての電極が同時に接地でき、なお且つ、様々な計測用回路に瞬時に変更できる新たな回路を設計し増設した。その結果、これまで問題となっていた意図しない放電が確実に防止でき、電流加熱および電子線カーボン蒸着を利用したTEM内でのナノ試料と電極の接合や任意の電極間を繋いだ回路の内部抵抗評価が可能になる等、TEM内精密電気計測を行う上で重要な課題が克服できつつある。 一方で、昨年度に準備を進めてきた定電流印加用のW電極のギャップ間の距離約10 μmに比較して、今年度合成できた多結晶Cuナノワイヤの平均長が10 μm未満であったため、TEM内で上記接合技法を用いた定電流印加用ギャップへの試料の固定が当初の見込みより技術的に困難を極めた。そこで、平成24年度は、ギャップ幅が1 μmと狭く、定電流印加用の固定電極ギャップ上に架橋しやすいAuの電極ギャップを、電子線リソグラフィーで絶縁性が高いガラス基板上に作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画では、平成24年度中にTEM内微小電気計測システムを確立し、実際に不純物の含有量が異なる試料における電気抵抗率の違いを計測する予定であったが、当初予想していたよりも電子線照射時の放電に伴う試料の破損が頻繁に生じたため、新たな計測回路の設計が必要になった。しかしながら、帯電が低減できる新たな回路の増設や瞬時に任意の測定回路にスイッチングできるようになり、現在狙いとしている精密電気計測による電気抵抗評価だけでなく、熱電対の作製による微小温度評価やナノスケール材料を任意の回路に接続し内部抵抗が評価できるなど、TEM内電気計測における周辺の技術基盤を着実に固めつつある。また、これまで電解研磨法による電気計測用のW探針および熱電対用のコンスタンタン探針、および銅探針の作製を行ってきたが、適切な電解研磨時の溶液の濃度、電圧、電流を吟味し、超純水やエアブローによる洗浄を行うことで、高品位な電気計測用探針の開発にも成功している。本手法で作製した探針は、従来作製した探針と同様に径が100 nm以下の細い先端が得られるだけでなく、探針先端表面に絶縁体のカーボン系不純物の付着が極めて少ない内部抵抗値が数100 Ωの高い導電性を示す。また、漏えい電流が少ない定電流印加用試料の作製に向けた幅1 μmの電極ギャップも作製できており、当初の研究計画よりもやや遅れているが、今後のTEM内四端子回路の敷設に向けた個々の問題の解決を着実に図ってきた。また、本研究に関連する研究結果を2012年9月に、欧文誌Microscopyにおいて投稿発表を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度については、本研究の最終年度であり、これまでに開発してきたTEM内微小電気計測用の周辺技術を活かし、より着実に研究を進めるため、研究目的をある程度絞って進める。まず、ギャップ間が1 μmに制御された定電流印加用のAu固定電極上に多結晶Cuナノワイヤ試料を架橋させた試料の作製を試みる。さらに、平成23年度に開発したCNTナノ探針を利用することで、TEM内部に四端子回路を作製し、ナノスケールの高精度微小電気計測手法の確立を目指す。確立した本計測手法を、多結晶Cuナノワイヤの約100 nm以下の微小区間の電気抵抗率の評価に応用し、単結晶Cuナノワイヤまたは金属ナノワイヤ試料との電気抵抗率の比較を行う。実際に測定精度を検証した後、多結晶Cuナノワイヤの結晶粒界と結晶粒内の電気抵抗率を計測し、エネルギー分散X線分光法(EDS)や電子エネルギー損失分光法(EELS) による粒界周辺部の元素分布評価や微細構造評価の結果との比較を行う。 上記研究結果に関連する報告をとりまとめ、2013年夏にドイツで開催されるヨーロッパ顕微鏡学会で研究成果の発表を行い、国内学会等でも発表を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度に引き続き、様々な長さのナノワイヤーが架橋できるようにギャップ間を1 μm、5 μmに調節した定電流印加用の固定電極をガラス基板上に電子線リソグラフィー(現有備品)および集束イオンビーム(FIB)(現有備品)を利用して複数作製する。電極作製に必要なAu、Wワイヤー(金属ワイヤー)および機械研磨用耐水研磨紙、ダイヤモンド研磨紙および研磨用アルミナ粒子(研磨用品)を購入する。不純物の付着が極めて少ない微小探針の作製に用いる超純水製造装置の交換用ろ過フィルター(純水製造装置消耗品)、研磨用酸・アルカリ水溶液(電解研磨用品)を購入する。 上記研究に関連する結果をとりまとめ、2013年夏にドイツで開催されるヨーロッパ顕微鏡学会で研究成果の発表を行い(海外出張旅費)、国内学会等(国内出張旅費)でも発表を行う予定である。研究結果を論文に取りまとめ、投稿発表する予定である(論文投稿費)。
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