研究課題/領域番号 |
23760626
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
川本 直幸 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (70570753)
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キーワード | 透過電子顕微鏡法 / 電気計測 / 温度計測 / 熱電対 |
研究概要 |
透過電子顕微鏡(TEM)内における2本の微小探針を利用した精密電気計測手法およびその周辺技術の開発を進めてきた。ピエゾ駆動機構によりTEM内で独立して操作できる2本の微小探針を利用することで、TEM試料の所望の箇所のナノスケールの電気計測や温度計測ができるピエゾ駆動2探針走査トンネル顕微鏡(STM)-TEMホルダーを利用した新たな計測手法の開発が求められている。そこで、本研究では、ピエゾ駆動2探針走査トンネル顕微鏡(STM)-TEMホルダーを利用し、電気計測回路や探針作製手法の改良を施すことで、TEM内での局所的な領域での電気計測およびナノスケールでのTEM内局所温度計測手法の開発を行ってきた。特に本年度は、精密電気計測手法の一つである熱電対を利用したTEM内局所温度計測手法の開発に注力し、ナノスケールの熱伝導率等の熱物性の評価に向けた基盤技術として重要であるTEM内局所温度計測手法の開発の研究を主に遂行してきた。本研究では、電解研磨法を用いることで先端径が10 nm以下のクロメル(Cr-Ni)探針の作製に新たに成功し、コンスタンタン(Cu-Ni)探針と組み合わせることで、TEM内で接合部が小さい微小熱電対の作製に成功した。作製した微小熱電対を利用して、TEM試料のナノスケールの温度計測にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、TEM内で電気抵抗を精密に計測できるTEM試料を作製するため、電子ビーム蒸着を利用し、計測用ナノワーヤーを架橋させるための電極をガラス基板上に作製した。集束イオンビーム法(FIB)によるプローブを利用したマニピュレーションおよびW蒸着により、Cuナノワイヤを2つの電極上に固定しようと試みたが、蒸着時の温度上昇に伴うナノワイヤ自身の熱膨張により、試料とナノワイヤの接合が困難を極め、電気抵抗計測用のTEM試料作製が技術的に時間がかかることが分かった。そこで、本年度は、同時に進めてきたナノスケールの温度計測に向けた基盤技術の開発を主として、TEM内での微小熱電対を利用した局所温度計測手法の開発に注力した。昨年度まで開発を行ってきたCu探針およびCu-Ni探針を利用した微小熱電対は、温度変化に伴い生じる熱起電力が比較的小さく、また、Cu-Ni探針に比較して熱伝導率が高いCu探針を熱電対の構成材料として利用しているため、熱電対自身が接触することでTEM試料に及ぼす冷却効果により、計測したい試料自身の温度変化が小さくなる傾向があった。これらの問題点を改善するため、Cu探針に比較して熱伝導率が低いCr-Ni探針を採用し、熱起電力が大きく温度変化に対して線形の応答を示すCu-Ni探針とCr-Ni探針を接合した新たな微小熱電対の開発を試みた。その結果、先端径が200 nmの小さい接合部を持つ微小熱電対の開発に成功した。また、本熱電対を利用することで、TEM内部で接触した試料の温度変化に応じた熱起電力の計測が可能になった。本研究成果は、2013年8月にドイツのレーゲンスブルグ大学で開催されたヨーロッパ顕微鏡学会で研究成果の発表を行い、同年9月に金沢大学で開催された日本金属学会秋季大会において講演発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在課題となっている高精度なTEM内微小電気抵抗計測の実験に用いるTEM試料を作製するため、二つの電極間に架橋させるナノワイヤの設置方法を工夫しなければならない。これまでは、FIB法により極めて狭い金属電極間にナノワイヤを接合する方法を試みたが、今後は、STM-TEMホルダーを利用したTEM内微小探針操作技法によるマニピュレーション技術と電子線カーボン蒸着法を組み合わせることで、2つの電極間に架橋したCuナノワイヤのTEM試料の作製を試みる。本研究ではすでに、カーボンナノチューブを応用した先端径が数 nmの電気計測用探針の開発に成功しており、本試料の準備と組み合わせることで高空間分解能、高精度なTEM内電気計測が期待できる。 さらに、本研究で新たに開発に成功したCu-NiおよびCr-Ni探針を接合した先端径が小さい微小熱電対を利用することで、今後これまでレーザーを利用したサブミリスケールの熱伝導評価手法よりもより小さいナノスケールでの熱伝導評価手法に役立つ基盤技術の開発を試みる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な設備備品、消耗品に関しては予定通り購入したが、一部消耗品や論文投稿費が研究の進捗状況にかんがみて一部残額が発生しており、また、成果発表に計上していた旅費などにおいて、学会などが事業期間の末期および事業期間後に開催されるため未使用額が生じた。 本課題に関連した研究において、必要な消耗品を購入し、また、本研究テーマに関連した学会発表および論文発表の投稿費用等として使用する予定である。
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