研究課題/領域番号 |
23760629
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研究機関 | (財)ファインセラミックスセンター |
研究代表者 |
桑原 彰秀 (財)ファインセラミックスセンター, その他部局等, 研究員 (30378799)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 界面 / 第一原理計算 / 欠陥平衡 / 固体イオニクス |
研究概要 |
界面欠陥平衡を解析するために表面モデルの構築を行った。表面モデルとしては分極面ではない非極性面であるBaZrO3の(001)面に着目し、BaO終端とZrO2終端の2種類で検討を行った。表面エネルギーの計算結果はBaO-rich条件ではBaO終端面、ZrO2-rich条件ではZrO2終端面が安定であることが確認された。また電子構造解析の結果、保表面において、バルクよりもバンドギャップが減少することがあきらかになった。これは界面におけるダングリングボンドの影響によるものと考えられる。得られた、(001)面表面モデルに対して表面からの距離を変化させて酸素空孔、プロトンを導入し形成エネルギーの位置依存性を調査した。その結果、酸素空孔、プロトンのいずれのモデルにおいても表面スラブモデル中央のバルク領域よりも表面近傍で形成エネルギーが低下することが明らかになった。またBa空孔やZr空孔のようなカチオン由来の欠陥も表面近傍で形成エネルギーが低下することがあきらかになった。粒内とは異なる表面での余剰な欠陥形成は界面でのキャリア欠陥の拡散に大きな与えると考えられる。また、今年度はペロブスカイト型酸化物とともに代表的な高温プロトン伝導体である希土類リン酸塩LaPO4、LaP3O9における欠陥形成エネルギーの検討を行った。希土類リン酸塩では、酸素欠損がペロブスカイト型酸化物に見られるような「空孔型」ではなく複数のリン酸イオン((PO4)3-)が縮合した縮合リン酸塩((P2O7)4-)として存在することが赤外分光法等の実験から示唆されていた。今回、第一原理計算による欠陥構造解析によって、LaPO4、LaP3O9中の酸素欠損は縮合リン酸塩の形態で存在することが計算からも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表面モデルに対する点欠陥構造解析を実施することで、表面近傍においてイオン伝導のキャリアであるプロトンや酸素空孔が粒内よりも形成しやすくなるが、キャリアの拡散を阻害すると考えられるカチオン空孔の形成も促進されるという新しい知見を得ることができた。平成24年度の粒界モデルに関する理論解析の予備的な情報を得ることができたといえる。また、当初の研究計画には無かったがBaZrO3と同じく代表的なプロトン伝導性酸化物である希土類リン酸塩における欠陥平衡の解析も実施することで、LaPO4、LaP3O9中における欠陥形成挙動の酸素分圧、水蒸気分圧依存性を定量的に評価し、BaZrO3とLaPO4、LaP3O9の解析結果を比較した。結晶構造の違いが溶解プロトン濃度に与える影響を調べた本研究結果は、酸化物へのプロトン溶解反応を支配する材料学的因子を理解する上で重要な知見であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は表面モデルのによる結果を踏まえて、粒界モデルの構築を行う。また当初は平成25年度に実施を予定していた、電極-電解質界面モデルの構築をH24年度内に実施する予定である。これは、金属-電解質界面モデルは電解質単体の界面モデルよりも計算負荷が大きいため今年度中に計画を前倒しして実施することで、計算条件の決定を迅速に行うことを目的としている。BaZrO3の粒界モデルとしてはΣ3、Σ5などの対応粒界モデルを採用することを予定している。界面でのカチオン元素の不定比性の可能性についても考慮し、粒界における点欠陥形成エネルギーの計算、得られたエネルギーに基づく熱平衡濃度の導出とその気相分圧依存性を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、主に消耗品であるデータ保存用のHDD、界面構造解析ワークステーションに内蔵するSSDの購入、国内および海外会議の出張旅費、論文投稿による印刷代等に予算を執行する。昨年度中は当初予定していた額よりも国内旅費および海外旅費が少なかったため、次年度使用額が3万円程度発生した。平成24年度に当初予定とは別の海外国際会議での招待講演が確定し旅費の使用予定額が増額されるので、旅費に充当する。
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