プロトン伝導性固体酸化物燃料電池の実用化を実現させるためには固体電解質におけるプロトン伝導率を向上させる必要がある。プロトン伝導性は電解質である酸化物へのアクセプター元素の添加と酸化物イオン空孔の形成、酸化物イオン空孔と水蒸気の水和反応によるプロトン溶解という複雑な欠陥反応を介して発現する。本研究では代表的なプロトン伝導体であるBaZrO3を対象として第一原理計算による点欠陥形成エネルギーの評価と熱力学に基づく熱平衡欠陥濃度の導出を行った。過去の研究では、主に単独欠陥についての議論がなされてきたが、特に本研究では全ての欠陥種を計算対象とし、陽イオン欠陥による不定比性や欠陥対についても考慮した。当初の計画では単欠陥とその界面近傍での形成挙動を解析する予定であったが、会合対の形成はプロトン伝導性BaZrO3において主要な反応であることが明らかになったため、解析の中心を会合対の網羅的な計算に変更した。点欠陥形成エネルギーの計算を実施した結果、溶解した伝導キャリアであるプロトンの大部分がアクセプター元素に捕獲され会合対を形成することが確認された。またBaZrO3のような複酸化物の場合、陽イオンの不定比性がプロトンの溶解量を大きく変えることも明らかになった。特にBa欠損条件下ではYのような添加元素はBaサイトとZrサイトの両方を占有することで自己電荷補償を起こしてしまい、プロトン溶解量が大きく低減されることを定量的に明らかにした。代表的なBaZrO3へのアクセプター添加元素であるYとScについて会合エネルギーの計算と熱平衡濃度を算出した結果、Scの方がYよりも会合対形成エネルギーが大きく、多量のプロトンを捕獲してしまうことが定量的に示された。BaZrO3ではY添加系の方がSc添加系よりもプロトン伝導率が高い。その要因は会合対形成エネルギーの差で説明が可能である。
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