光触媒は,光を吸収することで化学反応を進行させる物質のことであるが,これを応用して,太陽光を用いて水やアルコールを分解し,クリーン燃料である水素を生成させる研究が盛んに行われている。有機物分解の用途ですでに実用化されている光触媒として有名な酸化チタンは,バンドギャップが大きい。このため,太陽光にわずかしか含まれていない紫外光しか吸収することができない問題がある。太陽光の有効利用のためには,太陽光中の割合が多い可視光で効率的に作用する光触媒の開発が望まれている。一方,これまでの光触媒の主な研究対象は,酸化チタンのように不対電子を持たない反磁性の金属酸化物であり,不対電子を含む複合酸化物についての報告はほとんどない。 そこで,本研究では,研究が遅れている不対電子を含む金属酸化物に注目した。電子数や結晶構造,組成によってうまく電子遷移を制御した新しいタイプの可視光応答光触媒の開発を目指した。中でも,3d軌道に電子が半分である5個入ったFe(III)を含む複合酸化物に注目し,まずは種々の鉄複合酸化物についてバンド構造と光触媒活性等を幅広く調査した。この結果,光触媒活性のあるFe(III)複合酸化物を多く見出した。活性も金属酸化物の組成や合成方法に大きく依存することがわかった。この点は従来の反磁性金属酸化物と類似していた。一方で,特異な傾向も見られた。助触媒は,光触媒に酸化チタンを用いる場合には担持した方が活性が高いのに対し,鉄複合酸化物では,担持しない方が活性が高いという結果が得られた。また,一部の鉄複合酸化物の光触媒活性の波長依存性を調べたところ,650 nmの光でも活性が見られた。
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