研究概要 |
チタン酸バリウム(BaTiO3)セラミックスには粒径によって誘電特性が変化するいわゆるサイズ効果が存在する.粒径1um以上の領域では粒径の減少に伴い誘電率が増加するが,粒径1um以下の領域では誘電率が減少することが知られている.一方,BaTiO3のAサイトやBサイトをCaやZrで置換した組成系は,耐還元性,絶縁信頼性,温度安定性の観点から,セラミックスコンデンサの材料として広く用いられている.しかし,CaやZrで置換した組成系のセラミックスについてのサイズ効果は不明である.本研究ではエアロゾルデポジション法と二段階焼結法により微細グレインを有するBaTiO3,Ba(Zr,Ti)O3,(Ba,Ca)TiO3セラミックスを作製し,誘電特性におけるサイズ効果を検討した.様々な組成のBa(Zr,Ti)O3,(Ba,Ca)TiO3について誘電特性の粒径依存性を評価したところ,いずれもナノオーダーの粒径では,粒径の減少に伴い誘電率が減少することがわかった.また,リラクサー強誘電体であるBa(Zr,Ti)O3は通常の強誘電体であるBaTiO3,(Ba,Ca)TiO3に比べ,ナノオーダーの粒径で誘電率が低いことがわかった.純粋なBaTiO3セラミックスでは,グレインサイズの減少に伴い粒界応力が増大するため自発分極が小さくなり,ドメインが消失して,最終的には自発分極が消失する.その過程で,誘電率が小さくなる.一方,Ba(Zr,Ti)O3では,グレインサイズの減少に伴いPolar nanoregion(PNR)を形成する双極子の大きさが減少し,最終的にはPNRが消失する.この過程で,Ba(Zr,Ti)O3セラミックスの誘電率は減少すると考えられる.すなわち,BaTiO3系セラミックスにおけるサイズ効果のメカニズムは粒界応力による双極子サイズの減少として説明することができる.
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