研究課題/領域番号 |
23760638
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
豊浦 和明 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60590172)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | イオン伝導 / 第一原理計算 / プロトン / リン酸塩 |
研究概要 |
本研究は,第一原理計算を用いて,リン酸塩中のプロトン伝導機構を原子レベルで明らかにし,プロトン伝導性無機リン酸塩の材料設計の指針を得ることを目的としている.平成23年度は,まず,手法の確立に向け,LaPO4について一連の研究を実施した.具体的には,「プロトン安定・準安定サイトの同定」,「伝導経路探索およびそのポテンシャル障壁の評価」,「プロトン伝導に対するドーパントの効果」について研究を行った.まず,プロトンサイトの同定について,ポテンシャルエネルギー曲面の作成および構造最適化計算を行った.その結果,結晶中に存在する4種の酸素サイト周りに,それぞれ2点もしくは3点,プロトンサイトが存在することが分かった.O-H距離は約1Åで,水分子などの一般的なO-H結合距離と同程度であった.次に,同定したサイト間を結ぶ経路のうち,サイト間距離が3.5Å以下のものについて,伝導経路探索およびポテンシャル障壁の評価を行った.その結果,ポテンシャル障壁が1eV以下となる経路を20種見出した.酸化物中のプロトン移動経路は「同一酸素周りの回転」と「異なる酸素間のホッピング」に大別されるが,今回明らかになった経路は,回転6種およびホッピング14種であった.これらの経路からプロトンの長距離伝導ネットワークを構築した結果,プロトン伝導の律速過程のポテンシャル障壁は0.7eVであることがわかった.律速過程のポテンシャル障壁は,伝導度測定の活性化エネルギーに対応するが,今回得られた値は,実験報告値0.8-1.0eVより小さい.これは,ドーパントとプロトンの会合によりプロトン濃度に温度依存性が生じることに起因する.本研究で見積もったH-Sr会合エネルギーは0.3eVであり,過去の伝導度測定の温度域では,伝導度の活性化エネルギーを0.1-0.2eV増大させる効果があることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は,ランタンのリン酸塩の中でLaPO4に焦点を絞り,「結晶中のプロトン安定・準安定サイトの同定」,「同定したプロトンサイト間を結ぶ伝導経路探索およびそのポテンシャル障壁の評価」,「プロトン伝導に対するドーパントの効果」について研究を行った.次年度には,c軸にPO4四面体鎖を有するLaP3O9についても同様の検討を行い,結晶構造の違いがプロトン伝導に与える影響を明らかにする予定である.現時点で,研究手法の確立は完了し,LaPO4に関する計算はほぼ終了しているので,最終目標に対して50%程度の達成度であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度までに,LaPO4中のプロトン伝導機構について,「プロトン安定・準安定サイトの同定」,「同定したプロトンサイト間を結ぶ伝導経路探索およびそのポテンシャル障壁の評価」,「プロトン伝導に対するドーパントの効果」について研究を行い,プロトンは酸素イオン周りを好み,それら酸素イオン周りの回転と異なる酸素間のホッピングにより伝導することが分かった.そして,ドーパントがプロトンの一部をトラップし,可動プロトン濃度が減少することも明らかにした.今後は,異なる結晶構造をもつLaP3O9について,同様の検討を行うことを予定している. LaP3O9中では,PO4四面体が一部で点共有し,c軸方向に螺旋状に繋がっており,すべてのPO4四面体が孤立して存在しているLaPO4との対比は興味深い.PO4四面体鎖の有無がプロトン伝導に与える影響を明らかにすることができれば,新規プロトン伝導性リン酸塩のみならずプロトン伝導性酸化物の開発指針を与える重要な知見となる.また,プロトン伝導に与えるドーパントの効果も無視できない.平成23年度の結果によると,Srドーパントとプロトンの会合エネルギーは0.3 eVであり,中温域においては,導入されたプロトンの一部がトラップされ,伝導に寄与しないことがわかった.今後,会合エネルギーの小さなドーパント探索を行い,高プロトン伝導度を達成し得る最適ドーパントを見出すことも予定している.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は,研究で使用する計算機クラスタを増強するため,Intel Core i7 3930K (3.2GHz), 32Gメモリ搭載の計算機を購入した.当該年度は次年度への繰越し100,223円が生じているが,これは計算機購入の端数として生じたものである.平成24年度も,研究のスピードアップを目的として新たな第一原理計算用およびデータ処理用計算機を購入するが,前年度からの繰り越しもこの一部に充てる予定である.その他,計算機周辺機器やネットワーク関連部品の購入,加えて,成果発表・情報収集に関わる旅費,論文投稿費などにも研究費を使用する.
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