本研究は,第一原理計算を用いてランタンリン酸塩中のプロトン伝導機構を原子レベルで明らかにし,伝導度向上の材料設計指針を得ることを目的としている.平成23年度は,まず,オルトリン酸塩LaPO4について「結晶内のプロトンサイトの同定」,「サイト間を結ぶ伝導経路探索およびそのポテンシャル障壁の評価」,「プロトン伝導に対するドーパントの会合効果」について調査した.その結果,プロトンの長距離伝導に対する活性化エネルギーは,全方位に対して0.7 eVと等方的であることがわかった.また,プロトンとSrドーパントの会合により,プロトン伝導度の見かけの活性化エネルギーが0.1-0.2 eV程度増大することがわかった. 平成24年度は,ポリリン酸塩LaP3O9について,同様の調査を行った.その結果,LaPO4とは対照的にプロトン長距離伝導に大きな異方性が見られ,その活性化エネルギーは,bc面内で0.34 eVであるのに対し,a軸方向では1.0 eVとかなり大きいことがわかった.これは,c軸方向に延びるPO4四面体鎖に沿う高速プロトン伝導チャネルとb軸方向にチャネル間を繋ぐ架け橋が存在することに起因している.また,Srドーパントとの会合エネルギーは0.5-0.6 eVと大きく,これが伝導度を低下させている主因であることが明らかとなった. 以上より,両リン酸塩を比べると,ポリリン酸塩LaP3O9の方がプロトン伝導体としてのポテンシャルは高く,結晶配向性の制御や最適ドーパントの探索を行うことで,実用に供することのできる伝導度を達成する可能性を秘めていることがわかった.
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