研究課題/領域番号 |
23760643
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
永田 肇 東京理科大学, 理工学部, 講師 (70339117)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 非鉛強誘電体セラミックス / ペロブスカイト化合物 / 粒子配向技術 / 積層セラミックアクチュエータ |
研究概要 |
本研究では、動作温度範囲が広く(~300℃)、比較的大きな圧電性を持つ非鉛強誘電体セラミックスとして(Bi1/2K1/2)TiO3(BKT)に着目し、粒子配向型の積層セラミックアクチュエータを作製することを目的とている。一方、BKTセラミックスは、高密度セラミックスの作成が困難であることが知られており、これまで我々はホットプレス(HP)法を用いた加圧焼成によってBKTの高密度化を行ってきた。しかし、HP法のような加圧焼成プロセスは積層化プロセスの障害となると考えられ、焼結性の改善が求められていた。そこで初年度は、BKTセラミックスの高密度化とその電気的諸特性評価に取り組んだ。具体的には、BKT-BaTiO3系固溶体セラミックス(BKT-BT)やBKTのカリウム量を精度良く制御したBKTセラミックスを検討した。 BKT-BT固溶体セラミックスでは、BaTiO3(BT)の固溶量が増加するにしたがって焼結性が改善されることがわかった。この結果から、0.8BKT-0.2BTにおいてReactive Templated Grain Growth (RTGG法)を用いて粒子配向化を行ったところ、常圧焼成で高密度かつ高配向度を持つBKT系セラミックスの作製ができ、電界誘起歪み測定から求めたd33は250 pC/N程度と大きな値を示した。 BKTのカリウム量を精度良く制御したBKTセラミックスでは、従来使用されてきたカリウム原料K2CO3に代わって、吸湿性のきわめて少ないKHCO3原料を用いることにより、秤量ずれを極力抑えたBKTセラミックスを作製した。これによりBKTの組成(K量)精度良く制御することにより高密度かつ高抵抗なBKTセラミックスが作製できることを明らかにした。 本研究を通じて、今後の積層化プロセスにおいて有用かつ重要な知見が得られたものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画に示したSTEP1(初年度)では、BKTを主体とした固溶体系セラミックスの作製や添加効果による焼結性の改善や圧電歪み定数d33の改善(ソフト化)を目標として掲げた。本研究で実施したBKT-BT系固溶体セラミックスの作製やBKTのカリウム量を精度良く制御したBKTセラミックスの検討を通じて、高密度BKTセラミックが常圧焼成で作製できることを明らかにした。すなわち、焼結性の改善については一定を成果が得られているものと考えられる。一方、これらの方法で作製したBKT系セラミックスのd33を測定したところ、これまでに作製してきたBKTセラミックスと比べて同程度かまたは若干向上したといった結果を示した。この結果から、d33の改善(ソフト化)については、現段階で十分な成果が得られているとは言えない。 一方で、初年度に実施したBKTのカリウム量を精度良く制御したBKTセラミックスの検討では、出発原料の見直しを行っており、概要で示したKHCO3原料を用いること以外にも、粒子径サイズの小さいTiO2原料を検討した。本研究では、これらの原料の見直しを行うことにより、BKT組成が精度良く制御され、高密度かつ高抵抗なBKTセラミックスが作製できることを明らかにした。今後、様々な添加物や固溶体を試みる上で、ベース組成である高密度BKTセラミックスが再現性良く作製できることはきわめて重要な結果であると考えている。また、これらの最適化により、HP法なしに常圧焼成で高密度化できることは、研究の効率化の面でもたいへん有意義な成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に引き続き、BKT系セラミックスの圧電歪み定数d33の向上を目指す。具体的には、MnやNbイオン等の添加がソフト化に寄与する影響や、Liイオン等の焼結助剤の置換がBKTセラミックスの焼成温度の低下に及ぼす影響について調査する。これらの焼結性改善やソフト化が粒子配向型BKTセラミックスのd33値の改善に及ぼす影響を明らかにする。また、これらの研究にあたっては、H23年度の研究で得られた出発原料の選定や作製プロセスを積極的に活用する。 さらに、H24年度は、BKT系セラミックスを用いて粒子配向型の積層セラミックスアクチュエータの試作に取り組む。まず、最初の取り組みとして、無配向BKTセラミックスで積層セラミックスアクチュエータの試作を行う。本研究では、内部電極としてまずはPt(白金)またはAg-Pd(銀パラジウム)を用いる。その後、積層化に用いるシート成形プロセスにReactive Templated Grain Growth(RTGG)法を組み合わせることにより、粒子配向型BKT積層アクチュエータの試作を行う。このような粒子配向型積層アクチュエータの作製は他に例を見ないため、作製プロセスにおける課題の抽出やそれらの解決策について明らかにしてゆく。また、得られた積層アクチュエータの誘電的・強誘電的・圧電的特性を明らかにする。特に、アクチュエータとして重要な電界誘起歪み特性を中心に明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、セラミックス作製・評価・デバイス試作までの領域を一貫して実施するため、多くの消耗品が必要となる。非鉛圧電セラミックスの作製では、原材料費のみならず、シート成形プロセスなどの作製プロセス全般に係る経費が必要となる。また、アクチュエータの試作に当たっては、電極材料や材料の加工・工作に多くの予算を割く必要がある。従って、H24年度は多くの予算を消耗品費用に当てて使用することを計画している。また、次年度への繰越金が1500円程度あり、これも消耗品費として加える。現有設備に関しては、セラミックスの作製から小振幅領域の電気的・圧電的特性に関する装置は充実している。一方、初年度の研究費申請では、吸湿性の高いKイオン(K2CO3)を多量に使用するため、作製中の試料の保管には低湿度を実現できる乾燥機(申請設備:SuperDry)が必要不可欠であることを述べた。しかし、H23年度の研究結果から、吸湿性の低いKHCO3原料を使用できることが明らかとなったため不要となった。 また、H24年度は実施2年目となるため初年度に得られた成果について、国内・海外での研究成果発表を予定しており、初年度以上の旅費が必要となる。併せて論文投稿などにより成果発表を行うため英文校閲等の謝金も必要となる。その他、研究の進捗状況に合わせて学生アルバイトを雇用することを予定している。
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