研究課題/領域番号 |
23760647
|
研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
桂 ゆかり 独立行政法人理化学研究所, 高木磁性研究室, 基礎科学特別研究員 (00553760)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
キーワード | 熱電変換 / 第一原理計算 / 物質探索 |
研究概要 |
熱電変換材料は、電流によって温度差を作り出すペルチェ素子や、温度差から電力を作り出す熱電発電への応用が期待されている。しかし現在利用されている熱電変換材料は、変換効率の低さや環境負荷、低い耐熱性や高い生産コストなど、物質に依存するさまざまな欠点を持つ。物質に依存する欠点は、新規材料の発見によって克服可能である。ところがこれまでの材料探索では、既知熱電変換材料の元素置換など、既存材料からの類推が圧倒的に多く、新規材料の発見にはつながりにくかった。そこで本研究では、結晶構造データベースから選定した数百種類の候補物質について、多数の物質の特性を網羅的に予測した上で、有望な候補物質の選定を試みた。さらに、熱伝導率低減機構の存在や、環境負荷、生産コスト、耐熱性、既存研究の少なさを多角的に検討し、MgSrSi型化合物とスズ硫化物を候補物質として選択した。MgSrSi型構造化合物(anti-PbCl2型化合物)は複雑な斜方晶構造をとり、Mg2Si系やホイスラー合金、クラスレート系とは根本的に異なる、熱電特性のほとんど調べられていない物質群である。100種類以上のMgSrSi型化合物の電子状態計算からは、価電子数が8個または18個の時に高い熱電特性が予測された。特に8電子系は、イオン結合性による低いフォノン熱伝導率も相まって、高いZTの発現が期待できる。本年度は7種類の化合物の合成に成功し、うちCa2Siについては単相試料を得ることに成功した。スズ硫化物のうち、SnS2は層状の半導体で、計算から、平面三角格子の急峻な状態密度勾配に由来して大きなゼーベック係数の発現が期待できる。Sn2S3は複雑な1次元構造に起因する急峻な状態密度勾配をもつ半導体で、大きなゼーベック係数と低い熱伝導率が実現しており、600℃においてZT=0.06を達成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標として、計算対象物質の選定、電子計算システムの全自動化、格子振動計算によるフォノン熱伝導率の評価、および総合的実用可能性の検討による最終候補物質の選定を挙げており、これらは一部を除いて順調に進展している。さらに、次年度の予定であった実験を前倒しで行っており、目的化合物の合成と熱電特性の評価に成功している。本年度は電子状態計算と熱電特性のグラフ化を自動で行うスクリプトの作成が完了した。これにより、数百種類に及ぶ化合物の計算を昼夜連続で行い、電子構造や熱電特性を効率的に比較することが可能となった。格子振動計算はまだ勉強中であるが、フォノン熱伝導率は経験則と実測に基づく評価が可能であるため、進行の妨げとはなっていない。最終候補物質として、現在のところMgSrSi型化合物とスズ硫化物を選択し、実験を進めている。ZTの値はMgSrSi系では0.0001程度、スズ硫化物では0.06を達成しているが、目標であるZT=1には届いていない。しかし、キャリア量制御が十分に行えていない現在、これは想定の範囲内であり、合成手法の改善とキャリアドープ手法の確立により大幅に上昇する可能性が残っている。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、MgSrSi型化合物およびスズ化合物の合成と熱電特性測定を継続し、これらにおいて高いZTが発現することを証明する。8電子系MgSrSi型化合物の高品質試料の合成のため、密閉容器中合成や固相反応法、放電プラズマ焼結などの手法の中から最適な手法を選定する。続いて、構成元素の部分置換や不定比化学組成の利用によるキャリアドープを試みる。スズ硫化物についても、キャリア量が足りていないと考えられるSnS2とSn2S3についてキャリアドープ手法を開発し、ZTの上昇を試みる。また、熱電特性が未評価であるSnSについても、単相試料の合成とキャリアドープ、熱電特性の評価を行う。さらに次年度は、ホール係数測定システムを製作する。これまでの計画では測定を予定していなかったが、キャリア濃度は熱電特性を支配する非常に重要なパラメータであり、計算結果と実測値を対応させ、ZTの最大化に必要なドープ量を求めるために、測定が必要であると考えた。このため既存のゼーベック係数/電気抵抗率測定システムを改良し、既存の電磁石と新規に製作するプローブを利用して、室温から800℃までの温度において、ゼーベック係数と電気抵抗率、キャリア濃度の同時測定を実現する予定である。このほか、結晶構造データベースから、ナローギャップの存在や低い熱伝導率が期待できる化合物を抽出し、本年度開発した自動計算スクリプトを用いて、熱電材料としてさらに有望な化合物を探索しつづける予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度購入予定であったフォノン計算ソフトウェアは、同等の機能を持つフリーウェアが公開されたため購入を中止した。その結果発生した約70万円の未使用予算と、次年度の研究費約100万円を合算し、キャリア濃度測定のためのホール係数測定システムの開発と、試薬、反応容器、工作器械などの消耗品、グローブボックスや旅費として使用する予定である。高品質な8電子系MgSrSi型化合物の合成のため、高純度アルカリ土類金属試薬や、シリコンなどの微粉末を購入する。合成条件最適化のため、反応容器として、タンタルなどの金属管やグラファイトるつぼを購入するほか、反応容器や試料を加工するための工作器械を購入する。既存の合成装置で合成がうまく行かない場合は、試薬メーカーへの合成依頼を行う。大気中で安定な試料が得られない場合は、グローブボックスを新設して実験を行う。ホール係数測定システムには、既存のシステムの部品を主に利用する予定であるが、独自のプローブの製作のため、白金ロジウム熱電対や、アルミナ管等のセラミック材料、真空部品やコネクタなどの部品を購入する。このほか研究成果の発表と研究動向の調査のため、デンマークで開催される国際熱電学会などへの旅費として研究費を使用する。
|