研究課題/領域番号 |
23760647
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
桂 ゆかり 独立行政法人理化学研究所, 高木磁性研究室, 客員研究員 (00553760)
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キーワード | 熱電変換 / 第一原理電子状態計算 / MgSrSi型化合物 / スズ硫化物 |
研究概要 |
熱電発電やペルチェ素子への応用を期待して、高い性能指数ZTを備え、資源的に豊富で毒性が低い新規熱電変換材料の発見が求められている。ZTの上昇には高い熱起電力、低い電気抵抗率、低い熱伝導率の実現が重要であるが、これらは独立に制御できないことから、ZTの理論的予測は困難と考えられてきた。そのような中、本研究では、多数の化合物について電子構造計算からZTの理論的最大値を予測する手法を開発すると同時に、その過程で見つかった有望な候補物質の合成と熱電特性評価を並行して行ってきた。 前年度より合成実験を行ってきたMgSrSi型構造化合物については、大気中で容易に分解するGe系やSn系に対し、Si系が安定であり有望であることを見出した。Ca2-xSrxSi固溶体は、いずれも室温で1-2W/mKと低い熱伝導率、10mΩcmと低い電気抵抗率を示した。ZTは0.01と低いが、合成条件の改善により前年度の100倍に改善しており、さらなる上昇が期待できる。 また、前年度合成したSn2S3(ZT=0.08)に続いて、SnSを合成して熱電特性を評価したところ、室温で0.8W/mKと異常に低い熱伝導率を確認した。この低熱伝導率を説明する理論はまだないものの、Sn2+イオンの孤立電子対により格子振動に非調和性が導入されている可能性が考えられ、新しい低熱伝導率材料の探索指針として期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第一原理計算による熱電特性の予測と実験結果との照合を行うためには高温ホール測定装置の製作が必要であったが、所属研究室の変更に伴う装置類の移動と産休の取得により時間が確保できなかったため、次年度以降に製作することとした。 このほかの実験に関してはおおむね順調に進展しており、Ca2Siにおいては大気中で優れた安定性を示すことがわかったほか、合成手法の改善により性能指数の大幅な改善に成功した。しかしまだ実用レベルの性能指数に到達したとは言えず、当初の予定通りキャリアドープ手法の開発による熱電性能の改善を目指すほか、並行して他の候補化合物の調査を続ける必要がある。 Sn硫化物については、非常に低い熱伝導率を示すSnSが発見できた。この発見により、類似の電子構造を持つ化合物でも新たな候補化合物が発見できる可能性が期待できる。しかし、SnSへのキャリアドープがまだ十分でないため、実用レベルの特性には到達しておらず、これについても当初の予定通り、キャリアドープ手法の開発を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
改善された熱電特性予測プログラムを利用して、MgSrSi型化合物やSn硫化物以外の有望な候補化合物群の発見を目指し、見つかった場合には合成と熱電特性の評価を行い、必要に応じて不純物元素の添加によるキャリアドープを試みる。 前年度までの計算では、定性的な傾向として、優れた熱電変換材料はいずれもフェルミ準位近傍の状態密度が小さく、状態密度勾配が急峻であるという傾向が得られていた。しかし計算したZTの理論的最大値は、報告されている実験値の半分以下に過小評価されてしまっていた。この過小評価は、キャリアドープをリジッドバンドモデルで扱うのではなく、実際の熱電変換材料と同様に、不純物原子が微量混入したモデルを考慮することで軽減することを試みる。 MgSrSi型化合物については、まだ熱電特性が未評価である3元系化合物MgCaSi, MgSrSi, MgBaSiの合成と熱電特性評価を試みる。計算から高い性能指数が予測できていることに加え、MgイオンはAlイオンで容易に置換できる可能性があり、キャリアドープ手法としても有効であると期待している。 Sn硫化物については、SnSへの有効な添加元素を見つけ出してキャリアドープ手法を確立するとともに、熱伝導率が低い理由を計算と実験の双方から解明する。 計算と実験結果との照合を行うため、室温以上の高温で測定可能なホール測定装置を製作する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究室の移動と産休に伴い高温ホール測定装置の製作が遅れたため、前年度は余剰経費が生じた。今年度は同装置の製作のために改めて電磁石システムを購入する予定である。また、試料合成のための試薬や反応容器などの消耗品を購入する。このほか、神戸で行われる国際熱電変換会議や名古屋で行われる日本熱電学会学術講演会などの学会に参加するための旅費として使用する予定である。
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