研究実績の概要 |
熱と電気を相互に変換できることから次世代の冷却・発電素子として期待される熱電変換材料は、変換効率や環境負荷、コストの問題を抱えており、新規熱電変換材料の発見が期待される。そこで本研究では第一原理電子状態計算を活用し、大規模かつ網羅的に新規熱電変換材料の候補を探索した。平成23年度は、結晶構造データベースから選定した百種類以上の候補物質について、網羅的な電子状態計算から性能指数の理論的上限値を計算したが、2つの問題が生じた。1つは計算値が既存熱電変換材料の性能指数を下回ってしまうこと、もう1つは計算条件によって予測値が大きくぶれ、最も有望な物質の判定が困難なことだった。そこで、次年度以降も計算手法の改良に取り組むとともに、比較的有望とわかった物質について、合成と熱電特性の評価を並行して進めることにした。平成24年度は、電子熱伝導率の計算法の精密化によって、電子系の性能指数の上限値の正確な予測が可能になった。さまざまな既知熱電材料の計算からは、熱電性能がバンドギャップと状態密度勾配に大きく依存することを見出した。また、高速・高精度な電気的特性測定装置の開発が完了した。平成25年度は、カルシウムケイ化物Ca2Siとスズ硫化物Sn2S3,SnSの合成と熱電特性評価、その改善に取り組んだ。いずれも熱伝導率が異常に低く、今後の性能指数の改善が期待された。平成26年度は、これまでの計算では無視してきたフォノン熱伝導率の予測手法を開発するため、およそ400の化合物について網羅的に最低熱伝導率を計算した。その結果、原子1個あたりの体積が大きいほどフォノン熱伝導率が低くなるという単純で有用な知見が得られ、大量の不純物を入れた物質系にも適用できるとして、熱電材料研究の分野で大きな反響を得た。本研究で開発した計算法を用いることで、新規熱電材料の探索研究が大きく加速すると期待できる。
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