研究課題/領域番号 |
23760651
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
野田 淳二 山口大学, 理工学研究科, 助教 (00398992)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | グリーンコンポジット |
研究概要 |
本研究では,天然繊維強化複合材料(GC)に関して,1本の撚り糸を埋め込んだ単撚糸埋込複合材料から,複数本の撚り糸から構成される一方向強化複合材料までのGC材料について引張特性を明らかにして,その引張特性の発現機構の解明を行うことを目的とした. 平成23年度は,単撚糸埋込複合材料についてのその場観察用引張試験システムの設計・製作を行った.このシステムを用いて,天然繊維と比べ数分の1の直径を有する炭素繊維を埋め込んだ単糸埋込複合材料を試作し,引張試験中のその場観察を行った.その結果,繊維の多重破断および破断繊維周辺の応力回復の様子を観察することができた.以上より,本年度の目標である偏光顕微鏡を用いたその場観察用引張試験システムの構築を達成することができた. また,天然繊維の引張特性を支配する撚り数の異なる撚り糸を用いて,撚糸を1本樹脂中に埋め込んだ単撚糸埋込複合材料を試作した.人工繊維とは異なり,天然繊維は表面に官能基を多く持つため界面接着性が高いと言われる.しかしながら,樹脂との組み合わせにそれらの接着性は左右されるため,樹脂の選定が難しく,本年度に行った数種の樹脂との試験片の試作では,撚糸に多重破断を起こさせる十分な界面接着性が得られなかった.人工繊維の単糸と天然繊維の撚糸では,直径で数倍の違いがあり,試験片寸法に関する設計変更が必要であることも分かった.このことより,試験片断面積の増加に伴う負荷能力の向上のため,中間ギアヘッドの変更およびロードセルの変更を行うべきと判断した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を遂行するに当たり,予算の執行項目に関して大幅な変更を行った.その理由は,2011年3月11日に起こった東日本大震災により甚大な被害が生じたことから緊急に財源確保を求められる可能性が生じ,8月に大学機関より支払い請求額の7割が支払い予定であることが通知された為である.これにより,その場観察用引張試験システムの設計において,当研究室所有の既存のシステムを改造して,当初の目的を達成できるように設計変更・製作した.また,直径40マイクロメートル程度の天然繊維の単撚糸複合材料の試作においては,直径7マイクロメートル程度の人工繊維用の試験機を改造して引張試験を行ったこともあり,試験片断面積の増加や樹脂の組み合わせ等の問題も重なって,最適な試験片の製作はできなかった.この試験片の試作と試験機のさらなる改良は今後の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の遂行に当たり平成24年度に行う具体的な研究目標は次の3つである.(1)天然繊維の単撚糸複合材料試験片および複数本を配した撚糸複合材料引張試験片の試作,(2)その場観察引張試験システムの改良,(3) 撚糸を用いた天然繊維複合材料(GC)の力学解析モデルの提案およびその解析,である. まず,試験片厚さを変更し,樹脂を数種類用意して単撚糸複合材料試験片を試作し,その場観察引張試験システムを用いて撚糸の多重破断挙動を観察する.この撚糸-樹脂の組み合わせを用いて撚り数を変化させた複撚糸一方向複合材料を作成し,引張試験を行って破壊挙動を観察する.同時に,その場観察引張試験システムのギアあるいはモーターを変更して負荷性能を向上し,ロードセルの容量の変更を行って測定性能の改良も行う.最後に,撚糸を用いたGCの引張特性を解析的に明らかにすべく,古典積層理論に基づいた撚糸対応縮約剛性係数を提案し,GCの引張特性の発現機構を解明する.これらの知見を用いて撚糸強化一方向GCの引張特性を実験的・解析的に明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
先の東日本大震災による緊急の財源確保に伴う一部の予算停止措置により,その場観察用引張試験システムの新規設計・製作を変更し,別装置の転用と改造を行ったため, 平成23年度の研究費に未使用額が生じた.平成24年度には,研究計画を修正してこの改造試験システムを当初の予定の仕様に近づけるために,研究費を執行する. 平成24年度の研究では,樹脂マトリックス中の天然繊維の引張破壊プロセスを観察するために,顕微鏡下で観察可能な小型の卓上横型引張試験機を改造する.本年度の設計・製作工程に加えて,負荷性能および測定性能の向上を目的に電気式モーター,中間ギアヘッドおよび小容量ロードセルを新たに購入する.また,GCのマトリックスである天然由来エポキシ樹脂およびラミー麻糸の消耗品なども計上した.さらに,天然繊維複合材料に関する研究は海外が先行しており,頻繁に情報収集を行う必要があり,外国旅費を計上した.
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