研究課題/領域番号 |
23760651
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
野田 淳二 山口大学, 理工学研究科, 准教授 (00398992)
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キーワード | 天然繊維 |
研究概要 |
本研究では,天然繊維強化複合材料(GC)に関して,1本の撚り糸を埋め込んだ単撚糸埋込複合材料から,複数本の撚り糸から構成される一方向強化複合材料までのGC材料について引張特性を明らかにして,その引張特性の発現機構の解明を行うことを目的とした. 平成23年度までに,単撚糸埋込複合材料についてのその場観察用引張試験システムの設計・製作を行った.このシステムを用いて,天然繊維と比べ数分の1の直径を有する炭素繊維を埋め込んだ単糸埋込複合材料を試作し,引張試験中のその場観察を行った.その結果,繊維の多重破断および破断繊維周辺の応力回復の様子を観察することができた.以上より,初年度の目標である偏光顕微鏡を用いたその場観察用引張試験システムの構築を達成することができた.また,天然繊維の引張特性を支配する撚り数の異なる撚り糸を用いて,撚糸を1本樹脂中に埋め込んだ単撚糸埋込複合材料を試作した. 平成24年度は,天然繊維の撚りの影響を明らかにするため,撚りのみに着目して,炭素繊維を撚糸にした単撚糸炭素繊維埋込複合材料の引張負荷下におけるその場観察を行った.これにより,撚りが繊維の破壊や繊維-樹脂界面のはく離に及ぼす影響を明らかにした.また,撚糸が樹脂中に埋め込まれた単撚糸複合材料のモデル化を行って,有限要素法による応力場解析を行い,撚りが界面のはく離を助長し,見かけの応力回復長さを増加させるために,繊維自体の破断を抑制することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を遂行するに当たり,予算の執行項目に関して大幅な変更を行った.その理由は,2011年3月11日に起こった東日本大震災により甚大な被害が生じたことから緊急に財源確保を求められる可能性が生じ,8月に大学機関より支払い請求額の7割が支払い予定であることが通知された為である.これにより,その場観察用引張試験システムの設計において,当研究室所有の既存のシステムを改造して,当初の目的を達成できるように設計変更・製作した.また,直径40m程度の天然繊維の単撚糸複合材料の試作においては,直径7m程度の人工繊維用の試験機を改造して引張試験を行ったこともあり,試験片断面積の増加や樹脂の組み合わせ等の問題も重なって,最適な試験片の製作はできなかった.そこで,人工繊維の単糸と天然繊維の撚糸では,直径で数倍の違いがあり,試験片寸法に関する設計変更が必要であることが分かっていたので,試験片断面積の増加に伴う負荷能力の向上のため,中間ギアヘッドの変更およびロードセルの変更を行った.その結果,炭素繊維から天然繊維撚糸まで,種々の繊維径の観察が行うことができるようなにその場観察用引張試験システムを完成させた. 平成24年度は,撚糸構造を持った麻繊維の単撚糸複合材料引張試験を行うため,良好な繊維―樹脂界面の接着性が達成しうる天然由来樹脂の候補として,大豆油由来アクリレート樹脂(AESO樹脂)を選定し,樹脂単体の機械的特性評価や,接着評価,硬化実験等の各種の確認実験を行った.
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今後の研究の推進方策 |
人工繊維とは異なり,天然繊維は表面に官能基を多く持つため界面接着性が高いと言われる.しかしながら,樹脂との組み合わせにそれらの接着性は左右されるため,樹脂の選定が難しく,ここまでに行った数種の樹脂との試験片の試作では,撚糸に多重破断を起こさせる十分な界面接着性が得られなかったが,AESO樹脂のみは天然由来で高い破断ひずみを有するため,候補として残った.そこで,本研究の遂行に当たり平成25年度に行う研究目標は次の2つである.(1)AESO樹脂の硬化条件の検討および(2) 天然繊維/AESO樹脂の単撚糸複合材料試験片の多重破断に関するその場観察である. まず,AESO樹脂の硬化時間,界面接着性,破断ひずみを左右する硬化剤,硬化促進剤,硬化温度および硬化時間の調査を行う.炭素繊維に比べ,天然繊維撚糸は直径が大きいため,一度破断が起きると,強力な界面接着性により,母材のき裂に発展して多重破断が起きなくなるため,樹脂の破断ひずみが重要となる.この樹脂の破断ひずみを始めとする機械的特性は,硬化剤,硬化促進剤や硬化条件に依存することから,様々な硬化剤等の組み合わせや,硬化条件を硬化させ,樹脂自体の機械的特性評価を行う.最適な組み合わせ・条件により製作された天然繊維撚糸埋込複合材料の引張負荷下におけるその場観察を行って繊維多重破断挙動を解明する.これらの知見に基づき,繊維多重破断挙動の撚り数の依存性を明らかにし,複数本の撚り糸から構成される一方向強化複合材料のGC材について引張特性を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に,撚糸構造を持った麻繊維の単撚糸複合材料引張試験を行うべく,良好な繊維―樹脂界面の接着性を有する様々な樹脂の検討を行った. 本研究では,繊維-樹脂の組み合わせにより界面特性に関する結果が変わることから,再現性・一般性を失うことなく普遍的な知見を導くことが重要である.平成25年度は,盛んに開発されている天然由来樹脂の中で,本研究に適する樹脂候補としてAESO樹脂に絞り,複合化を見据えた硬化条件を確定するために,種々の硬化剤・条件選定の実験を行う必要があり,その経費に計上する.さらに,天然繊維複合材料に関する研究は海外が先行しており,頻繁に情報収集を行う必要があり,外国旅費を計上した.
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