研究課題/領域番号 |
23760652
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研究機関 | 福島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
山内 紀子 福島工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (20598106)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 微粒子 / 液相合成 / 磁性粒子 / ポリマー粒子 / 複合化 / ナノ材料 |
研究概要 |
これまで、ソープフリー乳化重合を用いて、粒径10nm程度の磁性ナノ粒子(マグネタイト粒子)をポリマー微粒子内部に包含した複合粒子を合成してきた。本手法の特長としては、界面活性剤を使わずに、大きさの揃った(単分散)複合粒子をワンポット合成で得ることができる点にある。しかし、これまで本法で合成可能な複合粒子のマグネタイト粒子包含量は限られており、マグネタイト粒子の包含量を増やすことが課題であった。 マグネタイト(Fe3O4)粒子は、その表面にOH基を持つため、水との親和性が高い一方で、ポリマー粒子中に包含するためには表面に疎水性の官能基を付与する必要がある。その方策として、様々な有機官能基をもつシランカップリング剤による表面処理を検討した。 シランカップリング剤は、アルコキシ基の加水分解、続いてマグネタイト粒子表面にあるOH基との脱水縮合によって粒子表面へ付与されるが、加水分解および脱水縮合反応を促進するためには、塩基性触媒が用いられることが多い。塩基性触媒としては、一般的にはアンモニアが用いられるが、本研究ではルイス塩基であるジメチルアミンを用いた。ジエチルアミンを塩基性触媒かつ溶媒として利用することで、反応系を極力簡素化することが可能であり、かつ、反応速度を適切に制御可能となるようである。 フェニル基をもつシランカップリング剤で表面処理したマグネタイト粒子は、スチレンモノマーへの分散性がよく、バルク重合を試みたところ、マグネタイトが均一に分散したポリスチレンが得られた。 さらに、この表面処理の手法は、ナノサイズのシリカ粒子にも適用することができた。マグネタイトと同様、粒子表面にOH基があり親水性であるシリカ粒子を、シランカップリング剤で処理することにより、有機溶媒へ良好に分散させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソープフリー乳化重合では、ポリマー粒子形成機構に基づき、成長過程にある単分散なポリマー粒子にマグネタイト粒子を取り込ませ、その後もポリマー粒子を静電的に安定な状態で成長させることによって、単分散な複合粒子を合成してきた。しかし、ポリマー粒子の成長過程においてマグネタイト粒子を添加可能な時期は限られているため、マグネタイト粒子含有率の向上が難しかった。そこで、スチレンモノマーに予めマグネタイト粒子を分散させておき、それを水溶媒中でサブミクロンサイズ程度まで粉砕したモノマー油滴をそのまま重合する方法によって、マグネタイト粒子の高含有率化および含有率の均一化を検討することを考えた。 そのためにまず、フェニル基をもつシランカップリング剤によってマグネタイト粒子の表面処理を行ったところ、マグネタイト粒子をスチレンモノマー中に良好に分散できた。さらに、そのままバルク重合した後も(粒子の形状ではないものの)ポリスチレン中でのマグネタイト粒子の分散性が維持された。また、フェニル基をもつシランカップリング剤のみならず、ヘキシル基、メタクリロキシ基、ビニル基などをもつシランカップリング剤による表面処理も良好に行われることが確認できた。いずれも、塩基性触媒かつ溶媒としてジエチルアミンを用いている。マグネタイト粒子の表面官能基を幅広く設計できるということは、様々な溶媒やモノマーに粒子を分散可能となり、ポリマー粒子としてポリスチレン粒子以外の選択も可能になると考えられる。 さらに、この表面処理の手法をシリカナノ粒子にも適用できたことは、マグネタイト粒子以外の機能性ナノ粒子を内包したポリマー粒子合成への布石になると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、フェニル基で表面処理したマグネタイト粒子をスチレンモノマー中に分散させ、バルク重合によって、マグネタイト粒子が分散したポリマー塊をつくることには成功した。今後、マグネタイト粒子を分散させたモノマーを油滴状に粉砕してから重合する手法(ミニエマルション重合)を検討する。ここで、一般的なミニエマルション重合では、モノマー油滴の安定化剤として多量の界面活性剤を用いることが問題とされることがあった。界面活性剤が生成ポリマー粒子の表面に残留すると、粒子を実用化する際に不純物となるからである。そこで、安定化剤として、(応用に際し、種々の機能性分子を固定化するための基点となりうる)カルボキシル基などの官能基を持つものを検討する。官能基の解離によって、水溶媒中でポリマー粒子を安定化させるため、適切なpH条件の検索から行う。 ポリマー粒子中のマグネタイト粒子含有率を向上させ、かつ、各々のポリマー粒子中に含まれるマグネタイト粒子の均一性を高めることができた後は、マグネタイト粒子以外のナノ粒子を用いても同様な結果が得られるか検討する。具体的には、すでに粒子表面への有機官能基の導入および有機溶媒への高い分散性を確認できているシリカナノ粒子を用いて検討する。シリカナノ粒子、およびマグネタイト粒子による検討の知見を踏まえて、本重合系における機能性ナノ粒子の最適条件を導く。その後、誘電体であるチタニア粒子や蛍光体であるCdSe粒子などをポリマー粒子中に包含することを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
マグネタイト粒子の表面処理およびポリマー粒子重合を行うための超音波装置や撹拌装置などの購入に本研究費を使用する。さらに、真空乾燥による粉体サンプルを得るため、真空ポンプおよびその付属品を購入する。 また、今後は生成粒子の分析および評価をより頻繁に行う必要があり、学内外の共通機器などの利用を考えている。そのため、共通機器などで使用するセルやサンプルパンなどを本研究専用に購入し、粒径分布測定、示差熱重量分析などの測定を実施する。 試薬類としては、マグネタイト粒子作製のための2価および3価の塩化鉄、マグネタイト粒子の表面処理剤である種々のシランカップリング剤、表面処理の際の塩基性触媒かつ溶媒となるジエチルアミン等を用意する。さらに、モノマー、重合開始剤、種々の安定化剤の他、モノマーの禁止剤を取り除くためのinhibitor removerを購入する。 また、東北大学大学院工学研究科の今野研究室へ赴き、研究に関する情報収集およびディスカッションを積極的に行うための出張費に充てる。できる限り当研究室の学生とともに出張し、研究をさらに円滑に進める予定である。その他、所属学会の年会費や学会参加費などに本研究費を使用する。
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