本研究では,イオン液体と固体表面との強い相互作用を利用した疑似固体電解質の開発とそのイオン輸送メカニズムの解明を目的とした.これを達成するため,イオンダイナミクスのキーパラメータであるイオン液体溶媒,温度,イオン液体体積分率及びリチウム塩組成を関数としてイオン導電率測定や自己拡散係数を系統的に評価した.この結果,リチウム塩を溶解したDEME-TFSAやDEME-BF4,PP13-TFSAといったバルクの粘度が大きく自己拡散係数が小さい混合溶液をヒュームドシリカ表面に疑似固体化したところ,バルクよりもリチウムイオンの拡散係数が大きくなった.さらに,このバルクからの拡散係数の上昇度はイオン液体の粘度が大きいほど顕著であったが,イオン液体溶媒やリチウム塩の種類に依存しなかった.このことは,ヒュームドシリカ表面が新たなリチウムイオンの輸送経路となっていることを示している.さらに,リチウム対称セルを構築し,直流法や交流法を併用してイオン輸送特性及び安定性を評価した.これに加えてバルク全固体型リチウムイオン二次電池を構築し,電解質特性評価を行った.ここでは,典型的な正極材料であるLiCoO2やLiFePO4に加え,高容量正極である硫黄と金属リチウム負極を組み合わせた.この結果,一般的に金属リチウムに対して不安定であることが知られているイオン液体を含有した疑似固体電解質についても,デバイスの構造や動作条件を適切に選定することにより,200サイクル以上の充放電サイクル後も容量維持率が95%程度と従来の報告よりも遥かに優れたサイクル特性を示すことを実証した.
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