スピン角運動量の流れである「スピン流」と磁化の相関を理解することは、スピントロニクスデバイスの高性能化のための重要な課題である。本研究課題では、金属人工格子内に形成される磁気構造を積極的に利用することで、空間的にねじれた磁気構造を人工制御し、ねじれた磁気構造とスピン流の相関を解明することを目的としている。 昨年度の研究において得られたねじれた磁気構造の作製と基本的な磁気特性に関する知見をもとに、本年度はねじれた磁気構造とスピン流との相関の解明に焦点を絞り研究を遂行した。スパッタリング法を用いて、ハード磁性体であるFePt合金とソフト磁性体であるパーマロイ(Py)合金から構成される交換スプリング積層膜を作製し、Py内に形成されるねじれた磁気構造と電流との相関を調べ、スピン流による磁化反転手法を検討した。その結果、膜面垂直通電型素子においてスピン注入磁化反転の観測に成功し、また外部から高周波磁場によってスピン波を励起することで、高効率な磁化反転が可能であることを実証した。 研究期間全体を通じて、①FePt / Py交換スプリング薄膜におけるねじれた磁気構造の解明とその制御方法の確立、②ねじれた磁気構造における磁気抵抗効果の観測、および③ブロードバンド強磁性共鳴法によるねじれた磁気構造の磁化ダイナミクスの解明、といった基礎的且つ重要な知見が得られた。これらの結果をもとに、④ねじれた磁気構造に電流を流すことによるスピン注入磁化反転の実証、および⑤スピン波を励起することによる低エネルギー磁化反転技術の開発に成功した。得られた知見は、スピントロニクスデバイスの高性能化に資するものであると考えられる。
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