本研究では、高分子マトリクスの相分離と粘弾性が無機材料の分散性に及ぼす影響について明確にし、相分離と粘弾性を利用した熱刺激応答材料の設計指針を得ることが目標である。平成25年度では、汎用的な材料を用いてマトリクスの相分離が無機粒子の分散性に及ぼす影響を明らかにし、汎用材料を用いた熱刺激応答材料の可能性について検討した。また熱刺激応答材料の設計指針を得るためにこれまでに開発してきた熱刺激応答材料を用いて、マトリクスの相分離とシリカ粒子の分散性の関係について検討した。 汎用的な材料としてポリスチレンPS、ポリメタクリル酸メチルPMMA、シリカ粒子Siを用いてPS/PMMAの相分離構造に及ぼすSiの影響を検討した。SiはPSとPMMAの割合によらずPMMA層に分散した。またPMMAが海相、PSが島相(ドメイン)となるマトリクスにSiを加えるとPSドメインの構造に及ぼすSiの効果は非常に小さいことがわかった。一方、Siが局在的に分散したPMMAドメインは、微細化しにくく、肥大化することが判明した。またSiの分散状態に及ぼすPMMA、PSの粘度の影響は非常に小さいことが確認できた。従って、完全にマクロに相分離するマトリクスにおいてSiは親和性の高い成分に局在化するため、熱刺激応答材料にならないことが明らかになった。これまでの成果を総合的に考慮すると、Siと親和性が高い多成分マトリクスにおけるドメインがサブミクロン以下で相分離する場合、熱刺激によってSiの分散状態が変わることが示唆された。従って、申請当初の目標に掲げた熱刺激応答材料の設計指針は構築できたと言える。また、Siがマトリクスドメインに局在化することで材料の強度が飛躍的に増加することが確認されたことから、高強度材料の設計指針が得られた。
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