研究概要 |
遷移金属元素の水素化条件(水素化する温度・圧力)には,d電子数が増加すると水素化の圧力が上昇する系統性が見られるが,これに従わないPdやNiなどの元素も存在する.本研究では水素化物のX線吸収を測定し,水素化による電子状態の変化から水素吸蔵特性を調べた.研究実績は以下のように3d遷移金属と4d遷移金属の水素化物に分類される. 1万気圧以上の水素圧力下で3d遷移金属(Fe,Co,Ni)の一水素化物を作製し,K吸収端のX線吸収からd電子の状態密度と電荷移動を求めた.水素化後にd電子の状態密度に対するフェルミエネルギーの位置が上昇するが,d電子の総数でみれば0.1e程度の僅かな増加であることを明らかにした.FeとCoと異なりNiでは水素化後にフェルミエネルギーがd電子の状態密度曲線よりも上に位置する.このことは水素化物の磁性にも関係することを示した.さらに結晶構造の変化からこれらの元素の室温の水素化過程を詳細に観測することができた.この結果を2012年度に欧文誌のPhys. Rev. Bに発表した. Pdを母相とする4d遷移金属(RhおよびAg)の合金を作製し,常圧での水素含有量と組成依存性を求めた.PdにRhまたはAgを僅かに加えるだけで水素化する温度・圧力が急激に変わることを確認した.さらにd電子を直接観測できるL端の吸収測定を実施し電子状態を調べた.その結果,Agは水素と結合を形成せず,PdとRhは結合に伴って,フェルミエネルギー近傍では同程度のd電子が増加することが分かった.しかしRhの場合はPdよりも多くのホールを残しているなど,元素ごとの電子状態の相違が明らかになった.生成熱と電子状態との相関を求めることで,水素化特性の原因解明に繋がるものと考えられる.
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