研究課題/領域番号 |
23760679
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
佐野 泰三 独立行政法人産業技術総合研究所, 環境管理技術研究部門, 研究員 (30357165)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 環境技術 / 窒化炭素 / 光触媒 |
研究概要 |
グラファイト状窒化炭素(g-C3N4)の剥離機構の解明では、g-C3N4の基本構造の推定と剥離による構造変化の解析を進めた。光触媒作用のあるg-C3N4は完全な窒化炭素(C3N4)シートではなく、メレム(C6H6N10)のユニットの3つのアミノ基の内の2つだけを利用して連結した一次元ポリマーを形成していた。アルカリ水熱処理によるg-C3N4の構造変化を解析したところ、メレムユニットを連結するアミノ基の部位で加水分解が起こり、g-C3N4の一部が溶解し、溶解しにくい部分が薄片として剥離したり多孔質粒子を形成したりして、比表面積が増大したと推察された。 高頻度に剥離したg-C3N4を合成する試みとして、g-C3N4の前駆体であるメラミンに酸素原子を含む尿素を配合し、欠陥を導入する手法を検討した。尿素の配合比を増大させると550℃で焼成後の試料の比表面積は増大するが、水熱処理をすると比表面積は減少した。メラミンの焼成体と尿素の焼成体が分離しており、g-C3N4内部に尿素に起因する欠陥が導入されていない可能性がある。尿素の添加により光触媒活性が低下したため、活性低下の原因を解析することにより、光触媒反応機構の解明に利用できると期待される。 光触媒反応機構の解明では、g-C3N4のラジカル生成量と光触媒活性の関係を解析した。電子スピン共鳴法(ESR)によりg-C3N4の内部欠陥に由来するシグナルが観測された。シグナル強度はメラミンを520~550℃で焼成すると強くなり、500℃以下や600℃以上で焼成すると弱くなった。光触媒活性と同様の傾向があり、内部欠陥と光触媒活性の関連性が示唆された。また、可視光照射によりg=2.004のシグナルが増大し、伝導帯電子の生成を検出できた可能性がある。これらのシグナルは光触媒反応過程の解明に利用できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
剥離機構の解明は順調に進んでいる。高頻度に剥離したg-C3N4の合成にはブレークスルーが必要であり、やや遅れている。計画通りに進まない場合の対応策として予定していたとおり、光触媒反応機構の解明を行って一定の成果を得ることができた。全体として概ね順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
グラファイト状窒化炭素(g-C3N4)の反応機構の解明では、活性酸素種および表面官能基に着目して研究を進める。活性酸素種の関与と光吸収に伴う電子スピン共鳴(ESR)スペクトルの変化がH23年度に見出されたので、酸素分圧と水蒸気分圧を制御して光触媒反応(NOまたはトルエンの酸化)を進行させ、ESRスペクトル、FT-IRスペクトル、ガスクロマトグラフなどを用い、生成する酸素活性種を推定する。また、g-C3N4中のアミノ基およびシアノ基の存在が確認されており、これらの官能基と反応物の相互作用を解析する。活性酸素種および官能基の作用をもとにして反応機構を解明する。 g-C3N4を高頻度に剥離して比表面積をさらに増大させる調製方法の検討では、剥離前のg-C3N4をより剥離しやすい構造にする必要があるため、g-C3N4への欠陥導入を引き続き検討する。g-C3N4の原料のメラミンまたはシアナミドを溶解または溶融させた状態で有機化合物や金属塩を添加し、分子レベルでg-C3N4に不純物を加える。不純物の添加されたg-C3N4をアルカリ水熱処理して比表面積の変化を解析し、比表面積を増大させるのに適当な不純物添加方法を見出す。予定通りに研究が進まない場合には、g-C3N4の表面構造を制御し、光触媒活性を増大させる手法の開発を行う。 得られた反応機構と比表面積に関する知見に基づき、光触媒活性の高いg-C3N4の調製方法を開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験補助員の確保が遅れたために人件費が予定額を大きく下回ったことと、3月分の使用額が反映されていないことにより、次年度使用額が生じた。「高頻度に剥離したg-C3N4の合成」が予定よりも遅れているため、人件費および分析費に次年度使用額を投入し、促進を図る。
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