近年、有機材料を種々の電子デバイスに活用し、有機エレクトロルミネッセンス、有機薄膜太陽電池や有機薄膜トランジスタ(TFT)等の開発研究が行われている。これらの有機電子デバイスの特徴は、既存の無機材料ベースのデバイスよりも軽く柔軟性があり、しかも蒸着等の真空プロセスに替わって印刷技術を用いて作成でき、低コストで低環境負荷であると期待されることである。このようなデバイスの実現には、新材料の開発に加え、適した印刷プロセスの開発が求められている。現状では、既存の印刷技術の延長線上の技術が多く提案されているが、これらは必ずしも最適な方法とは言えない。従来の印刷用の版は、一度作製したパターンの変更が原理的に不可能であるが、再利用可能な印刷版やインクの開発は、省資源・省エネルギーを目指す観点からも、オンデマンドの少量多品種生産および低環境負荷な工業プロセスとして産業界にも貢献できる。 そこで本研究では、光刺激によってパターニングが可能な、繰り返し使用可能な平版を用いた印刷方法を開発するために、二つの研究アプローチで検討を行った。一つ目として、申請者らが新たに発見した、光による結晶→液体相転移現象を起こす化合物を「光応答性インク」として活用し、これを印刷プロセスに用いる。さらに光応答性インクに半導体特性を付与させるため、電子活性を有する光応答性インクの開発検討を行った。二つ目として、固体表面を光応答性分子で修飾することにより、光によって表面自由エネルギーが変化する平版の開発を目指し、そのための基盤的研究を行った。
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