研究課題/領域番号 |
23760681
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工 |
研究代表者 |
山田 浩之 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, システム工学群, 助教 (80582907)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 水素 / 疲労 / 拡散 / ひずみ速度 / アルミニウム合金 |
研究概要 |
地球環境保全のため,クリーンエネルギーである水素の利用の観点から,自動車産業においては燃料電池自動車(FCV)の研究開発が行われている。FCV用材料は,水素の影響と疲労の影響を同時に受けた時(湿潤環境下予疲労)に衝撃安全性を有することが求められる。 平成23年度は,本研究のベースとなる疲労変形時の水素拡散に関する研究を行った。材料内部の水素を直接観察することは非常に難しい。そこで,水素可視化手法である水素マイクロプリント法(HMT)を用いて,変形によって拡散し材料表面に到達した水素をFE-SEMによって観察することで水素拡散の推定を試みた。試験対象は,水素脆化を生じ易い7075アルミニウム合金とした。試験サイクル数を60回と固定し,負荷応力(弾性範囲:0.2%耐力525MPaの40,60,80%の3種類),周波数(0.1,1,10Hzの3種類)を変化させて疲労変形時の水素拡散を可視化した。 全ての疲労試験条件において,主な水素の放出サイトは第二相粒子(Al7Cu2Fe)であり,これまで報告されている引張変形と同様の結果を示した。しかし,引張変形の結果と異なり,第二相粒子から直接(第二相粒子上)放出される水素量が非常に多いことがわかった。疲労変形は,引張変形と異なり弾性応力状態が持続されるため,これまでの引張試験よりも材料内部の水素が応力誘起拡散の影響で多く放出されたと考えられる。また,負荷応力の増加および周波数の低下に伴い水素放出量は増加した。水素の拡散にはエネルギーと拡散する時間が重要であることが示唆された。本研究で行った試験条件では,試験片表面の損傷等は確認されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23度は,主にHMTによる7075アルミニウム合金の疲労変形時の水素拡散の可視化を中心に行い,予疲労条件の基礎データを採取した。これまでの引張変形による報告と異なり,疲労変形特有の水素拡散現象を把握することができた。湿度環境の影響調査が残っているが,試験装置等の準備はできているため,平成24年度早々に結果を出すことができる状況にある。また,疲労変形による損傷(き裂の生成等)の観察を行ったが,これまで行った実験条件では現れてない。しかし,疲労回数が増加すると環境水素の影響でき裂生成および成長が生じる可能性があるため,その条件を把握するための基礎データ蓄積を行うことができた。 次年度の予疲労材の衝撃試験を行うためのスプリット・ホプキンソン棒型衝撃試験装置に関して,試験条件(試験片の形状や破断までのデータ取得が可能,ひずみ速度1000(1/s)オーダーの実験が可能である等)にマッチングさせたものを購入した。 また,衝撃試験の予備実験として,準静的速度範囲における水素拡散に及ぼすひずみ速度の影響に関してもHMTによる調査を行っており,水素放出には転位の移動速度と関係があることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の7075アルミニウム合金の実験結果を考慮して,追加の湿潤環境下における疲労実験を行い,予疲労条件を確定する。水素貯蔵用候補材料として6061アルミニウム合金の実験データも追加する。 湿潤環境下(RH50%およびRH90%)において,予疲労を与えた試験片に対して準静的試験および衝撃試験を行い,引張強さ,破断伸び,断面減少率などを測定することによって,準静的および衝撃引張特性に及ぼす湿潤環境下予疲労の影響を評価する。また,試験片の破断後,表面や破面をFE-SEMによって観察し,破断形態に及ぼす水素と予疲労の影響を調査する。 6061および7075アルミニウム合金における試験方法を参考にその他の高圧水素貯蔵容器候補材料(SUS316L,SUS310S等)に対して同様の試験を行う予定である。様々な貯蔵容器材料の実験結果より,機械的特性に及ぼす水素,予疲労,ひずみ速度の影響を金属学的視点から考察する。 最終的に,6061および7075アルミニウム合金の機械的特性に及ぼす実使用環境(水素,予疲労,ひずみ速度)の影響を明らかにし,この結果をまとめることで燃料電池自動車用高圧水素貯蔵容器材料の安全性評価に関する新たな指針の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度において,本研究課題のメインとなるスプリット・ホプキンソン棒型衝撃試験装置を購入したため,平成24年度は,主にデータの蓄積,解析および発表(学会および論文等)を行うこととなる。 衝撃引張試験装置の使用途中の消耗品(応力波制御用の純銅製バッファー,半導体ひずみゲージ等の取り替え等)が必要になる。予疲労材料の試験において水素マイクロプリント法を行うため,原子核乳剤を購入する予定である。また,試験片の種類(6061アルミニウム合金,SUS316L,SUS310S等)を増やすため,購入費および加工費が必要となる。 研究成果を関係学会において計3回程度発表するための旅費等が必要である。また,国際会議において発表する旅費が必要である。最終的な研究成果報告として論文投稿費用が必要となる。
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