注射器やショックアブソーバーなどのシリンダ―型しゅう動機器において,高分子ガスケットとシリンダー内面間を無潤滑かつ低抵抗でしゅう動させる技術が望まれてきた.そこでそれらの円筒状しゅう動部に対して,我々が従来開発してきた3つの要素技術(I.高密度プラズマ処理によるガスケット材料表面の高弾性率化,II.PFPE 塗布と紫外線照射による高分子材料表面のフッ化,III.シリンダー内面への高速DLC 成膜)を適切に組み合わせて適用し,IV.摺動部形状(主としてガスケット形状)の最小限の設計変更を行うことで,必要なシール性を維持しながら機器の無潤滑駆動が可能であることを示した.つまりシリンダ―型しゅう動機器の無潤滑・低摩擦化のための設計指針を確立した.また,IIIにおいて成膜ガスの枯渇に左右されずに均一に成膜するためのモニタリング・自動制御技術を確立した. 特に,医療用プラスチック注射器において,ガスケットとバレル間の摩擦力低減のためにバレル内面へのシリコーンオイル塗布が行われているが,その潜在的な有害性が懸念されるため,上記指針に基づいてシリコーンオイルレス注射器の開発を目指した.まず熱可塑性エラストマー製ガスケット表面にパーフルオロポリエーテル塗布及び真空紫外線照射による光化学的フッ素化処理を行った.また,フッ素化による摩擦力低減が低面圧ほど顕著になることを踏まえて,バレル内径を拡大してガスケット-バレル間を低面圧化した.さらに,低面圧化に伴う漏れ発生荷重の低下を補うために液圧による自封作用を増大したガスケット形状を用いることで漏れ発生荷重を低下させずに,摩擦力を低減できることを示した.
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