研究課題/領域番号 |
23760699
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
田中 秀和 島根大学, 総合理工学部, 准教授 (70325041)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 人工さび / 鋼材 / 亜鉛処理鋼材 / 腐食・防食 / 形態制御 / 保護性さび粒子層 / 大気腐食 / 分子吸着 |
研究概要 |
本課題では,鋼材の腐食生成物である鉄さびあるいは亜鉛さびの生成,構造,形態とさび粒子層の緻密性,安定性,保護性の関係をナノ-ミクロ-マクロレベルで解明することを目的する。平成23年度は以下の検討を行った。(1)Fe(II)あるいはFe(III)溶液から調製した人工鉄さび粒子の生成に対する硫酸イオン,塩化物イオン,硝酸イオンの複合添加効果を調べたところ,Fe(II)からでは硫酸イオンはβ-FeOOHの生成を強く抑制し,α-FeOOHの前駆体である塩基性硫酸鉄の生成を促進した。また,Fe(III)からでは硫酸イオンは鉄さび粒子の生成を強く抑制した。よって,鋼材の大気腐食ではSOxの影響が最も大きいと分かった。(2)酸性条件下でFe(III)溶液から調製したα-FeOOHの生成に対するCu(II)の影響を調べたところ,耐候性鋼中のCuの合金比率に近いCu(II)添加量でα-FeOOHの結晶化は抑制され,粒子は微細化した。したがって,耐候性鋼中のCuはα-FeOOHさび粒子の微細化に強く影響すると分かった。(3)自動車用鋼板などに用いられているZn-Ni合金処理鋼材の腐食生成物を調べるため,亜鉛さびZinc Hydroxychloride (ZHC)の生成に対するNi(II)の影響を検討したところ,Ni(II)を微量添加するとZHC粒子の結晶化・粒子成長は強く抑制され,炭酸ガスとの親和性を低下させた。よって,Zn-Ni合金処理鋼材中のNiは亜鉛さびの生成に強く影響し,鋼材表面に緻密な保護性さび粒子層を形成すると考えられる。(4)亜鉛処理鋼材の腐食後期でのさび粒子生成を調べるため,亜鉛さびZinc Hydroxysulfate (ZHS)の生成に対するFe(II),Fe(III)の影響を検討したところ,Fe(II)はZHSの生成に大きく影響しなかったが,Fe(III)は強く抑制した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は人工鉄あるいは亜鉛さび粒子の生成に対するアニオンの影響およびナノ-ミクロ構造解析,人工さび粒子のマクロ物性評価を達成目標に設定した。人工さび粒子の生成に対するアニオンの影響は,鉄さび,亜鉛さびともに硫酸イオンが支配的と解明された。また,マクロ物性については分子吸着測定,表面電位測定,接触角測定などを行っており,さび粒子層の保護性,安定性の評価およびミクロ構造との関連性の解明は進んでいる。しかし,気体透過性実験については装置作成は終了したが,測定条件の最適化が不十分である。また,Cu(II)添加α-FeOOHのナノレベルの生成過程について,Cu,Feの状態を中心にSPring-8でin situ XAFS測定を行ったが,これも測定条件の最適化には完全には至っていない。そのため,研究目的の達成度について,「おおむね順調に進展している。」とした。平成24年度はこれらの課題の解決を行う予定にしている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進計画では,平成23年度に不十分であった研究課題について,解決するとともに,下記の研究を行う。(1)合成した人工鉄および亜鉛さび粒子と実環境で生成するさび粒子(実さび粒子)の構造,組成,形態を詳細に比較・検討し,構造や形態の違いの要因をナノ-ミクロレベルで解明する。種々の暴露環境,大気組成での実さび粒子の形態,構造に関する情報は,これまで多く報告されており,さらに鉄鋼メーカーの技術・研究者である研究協力者も多くの基礎データを有している。それらの結果と人工さび粒子の構造,形態と比較し,実環境下との差異を検討・解明し,より実環境に近い人工さび実験の最適条件を解明する。(2)鋼材の耐食性向上に有効な合金金属(Cu,Cr,Ni,Tiなど)の役割を解明するため,種々の金属イオン存在下で人工鉄さびおよび亜鉛さび粒子の合成を行い,粒子の生成過程,構造,形態をナノ-ミクロレベルで解析するとともに,マクロ物性(分子吸着能,表面電位,接触角,気体透過性)について評価し,鋼材の防食に有効な金属を見いだす。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費の使用計画では,50万円以上の備品の購入はなく,研究計画の遂行に必要な試薬,ガラス器具類などの購入(35万円)を行うとともに,学会・講演会での講演,聴講を通して本課題の利点,欠点を鉄鋼メーカー技術者・研究者からの意見,コメントなどから収集する(国内旅費20万円)。また,人工さび粒子の生成に対する金属イオンの影響をin situ XAFS測定でナノレベルで解明するため,SPring-8への調査・研究旅費として使用する(国内旅費5万円)。
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