本課題では,鋼材の腐食生成物である鉄さびあるいは亜鉛さびの生成,構造,形態とさび粒子層の緻密性,安定性,保護性の関係をナノ-ミクロ-マクロレベルで解明することを目的する。平成24年度は以下の検討を行った。 (1)耐候性鋼に微量合金化金属の働きを解明するため,Cu(II),Cr(III),Ni(II)存在下,Fe(II)からα-FeOOH粒子を調製した。α-FeOOH粒子の微細化にはCr(III),Cu(II)が有効であった。これは,Cr(III),Cu(II)はNi(II)より低pHで加水分解すること,Cr(III)はα-FeOOH結晶に固溶すること,Cu(II)はJahn-Teller効果によりCuO6 8面体が歪むことに起因すると明らかになった。 (2) SOx環境下で生成するSchwertmanniteさびについて,人工Schwertmanniteさびの生成に対するTi(IV)の影響を調べたところ,Ti(IV)はSchwertmanniteさびを微細化し,同時に安定相であるα-FeOOHへの転移を促進した。したがって,耐候性鋼中のTiはα-FeOOHさびの形成を促進し,同時に微細化すると示唆される。 (3) 塗装防食鋼板の腐食機構の解明のため,α-,β-FeOOHの生成に対するリン酸イオンの影響を調べた。リン酸イオンはα-FeOOHの生成に大きな影響を与えなかったが,β-FeOOHの形成を抑制した。よって,飛来塩分環境下では塗装防食鋼板の有効性は低いと示唆される。 (4) 鋼材の腐食に対する大気中のSOxの影響を調べるため,α-,β-FeOOHの生成に対する亜硫酸イオンの影響を調べた。亜硫酸イオンは,Fe(III)をFe(II)に還元するため,FeOOH粒子の形成を抑制し,その効果はβ -FeOOH >α-FeOOHであった。
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