研究課題/領域番号 |
23760700
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
水口 隆 香川大学, 工学部, 助教 (00462515)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 電磁鋼板 / 脆性破壊 / 高速引張試験 |
研究概要 |
本研究では、真空溶解により溶製し、熱間圧延を施したFe-5mass%Si合金を熱延材を使用した。圧延時の脆性破壊を抑制するため、圧下率を0~50%の範囲内で変化させた800℃での温間圧延を行うことで、圧延材中に転位組織を導入した。圧下率0%材は、完全再結晶組織を有すること、また、圧延材では、転位が導入されていることをそれぞれ透過電子顕微鏡により確認した。圧下率が増加するほど転位密度が上昇する傾向が見受けられた。また、透過電子顕微鏡による観察では、いずれの圧延材においても加工伸張粒および転位セル組織などの発達は観察されていない。このように、圧延を利用することで転位密度のみを変化させた圧延材の作製に成功した。 市販の材料試験機を用いて室温で0.0001/sから1/sまでのひずみ速度で引張試験を行い、応力-ひずみ曲線の採取と破断面の組織観察を行った。0%圧下材では、実施したすべてのひずみ速度で加工硬化途中で脆性的に破断した。一方、温間域での圧延材では、高ひずみ速度側では加工硬化途中で破断したが、低ひずみ速度側では局部伸びが観察された。このように、これまでにFe-4%Si合金で観察されているひずみ速度変化による破壊形態遷移が本合金でも確認された。また、この破壊形態が遷移するひずみ速度は圧下率の増加に従って高ひずみ速度側に移行した。走査電子顕微鏡による破断面観察では、すべての試験片で脆性的な破面形態であるリバーパターンが観察されたことから、本研究では局部伸びの有無で破壊形態の遷移を判断している。これらの結果から、転位組織導入は脆性破壊抑制に有効であること、また、本研究で実施した範囲内では圧下率の増加に従い脆性破壊は抑制される傾向にあることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標は下記の二つである。(1)転位を導入したFe-Si合金の作製とその引張試験(2)次年度に予定している単結晶作製の準備(1)については目標はほぼ達成できた。しかし、(2)については今年度にもFe-Si合金単結晶作製の準備に着手していたが、単結晶成長中に単結晶棒が座屈してしまい、引張試験が採取できる大きさの単結晶棒の作製に失敗しており、予想より少し遅れている状況にある。(1)と(2)を総合的に勘案して、現在の達成度を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) Fe-5%Si単結晶棒の作製および引張試験 浮遊帯域溶融法により単結晶育成速度1cm/hの条件で成長方位が異なるFe-5%Si合金単結晶の作製を行う。昨年度にもFe-Si合金単結晶作製の準備に着手していたが、単結晶成長中に単結晶棒が座屈してしまい、引張試験が採取できる単結晶棒の作製に失敗している。今年度も引き続き単結晶作製にチャレンジを行う。この単結晶を用いて、次年度に、Fe-5%Si合金単結晶の破壊形態が遷移するひずみ速度に与える引張方位の影響を検討する。昨年度に作製した単結晶の室温・種々のひずみ速度の引張試験を行い、破壊形態遷移に及ぼす引張方位依存性を検討する。(2)総括:高靭化に与える結晶方位の影響の解明 圧延により転位密度だけでなく結晶方位が変化するため、脆性の改善が転位密度によるものか、結晶方位によるものかを同定する必要がある。前年度に調べた引張軸に対する結晶方位の比率と破壊形態が遷移するひずみ速度の結晶方位依存性との相関を検討することで、靭性改善に及ぼす結晶方位の影響を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を遂行するために必要な大型力学試験・組織観察装置は香川大学で所有しており、香川大学内で遂行可能である。そのため、新規装置購入は予定していない。その他は組織観察に必要な研磨、薬品等、放電加工機用のワイヤーなど実験に欠かせない消耗品として約60万円を予定している。また、学会参加等に伴う旅費として約20万円を予定している。
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