家電製品のモータ等に使用されている電磁鋼板では、機械的特性と磁気特性の両立が必要とされている。磁気特性の観点から3.5%以上のSi添加が好ましいが、脆化が問題となっており、高靭化が求められている。 前年度では、電磁鋼板用Fe-5%Si合金において、圧下率の増大に従って破壊形態が遷移するひずみ速度が高ひずみ速度側へ移行し、高靭化が達成されたこと、また、 破断後の組織観察からは、高い局部伸びが得られる条件ほど変形双晶の発生量が多くなることを明らかにした。 このように、変形双晶の割合が応力-ひずみ関係、特に、破断伸びに影響し、高靭化機構の解明にはその影響を調査する必要がある。そこで、この破断伸びと変形双晶発生量との関係を明らかにするために、今年度では、Fe-5%Si合金における各種温度において破断するまで引張試験を実施し、組織観察を行うことで両者の関連性を検討した。 各試験温度での引張試験の結果、試験温度低下に伴って、同一ひずみ量で比較すれば変形応力は上昇し、破断伸びは低下した。破断面観察の結果、試験温度が低下して破断伸びが減少するほど、変形双晶の導入された結晶粒の割合と、変形双晶の交差が導入されている結晶粒の割合の増加が確認され、変形双晶の発生および交差が多いほど破断伸びが低下することが明らかとなった。これは、変形双晶同士の交差が脆性破壊の原因となっていることを示唆するもので、変形双晶の発生を抑制することが高靱化につながる可能性があることが示唆された。また、高靭化を有する高Si含有電磁鋼板の作製のためには、軽圧延などを利用して格子欠陥を導入して、結晶粒内に変形双晶が発生しにくい環境を作り出すことが重要であることが導き出された。
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