研究課題/領域番号 |
23760715
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
南雲 亮 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20552003)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 水処理膜 / 計算化学 / ファウリング |
研究概要 |
ソフトマテリアルの界面は、周囲の環境変化に応じて特異的なミクロ相互作用を形成するために、マテリアルの機能や物性を支配する重要因子となる。しかし界面近傍では、あらゆる分子のダイナミクスが複雑に関与するため、ミクロ相互作用の計測は容易ではない。そこで当該年度は、ソフトマテリアル界面における水溶液中タンパク質の吸着現象を対象に、分子動力学(MD)法を応用することで、(1)タンパク質構造の簡略化モデリングとミクロ相互作用ポテンシャル計測の実施、(2)ソフトマテリアル界面近傍における水分子のミクロ挙動解析、の各項目を実施した。以下に、各項目の実施によって得られた研究業績の概要を示す。 項目(1)では、MD法を応用することで、タンパク質を構成するアミノ酸残基を簡略化するための分子モデリングを実施した。その結果、親水性残基と疎水性残基では、ミクロ相互作用に顕著な違いが生じることを示すとともに、アミノ酸残基の粗視化によるモデリングの簡略化が有効であることを明確にした。 項目(2)では、ソフトマテリアル界面の近傍における水分子のミクロ挙動を解明すべく、MD法に基づくトラジェクトリ解析を実施した。具体的には、マテリアル界面の親疎水性に応じて、水分子の表面滞留時間が顕著に異なることを計測した。親水性表面では水分子が長く滞留するのに対し、疎水性の表面では水分子が頻繁に入れ替わる。その振る舞いを、水分子の滞留時間によって系統的に評価できることを示した。さらに、マテリアル界面近傍における水分子の配向分布を解析することで、特異的な配向性を有するマテリアルと、特異的なピークはみられず平坦な配向分布を示すマテリアルがあることを明らかにした。 こうした配向分布の相違が、マテリアルの機能や物性に関する決定要因になることも考えられるため、今後さらなる詳細解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始の当初、当該年度の期間中において、(1)タンパク質構造の簡略化モデリング、(2)アミノ酸残基とマテリアル間の相互作用ポテンシャル算出、(3)大規模分子動力学(MD)計算を応用した自由エネルギー精密計測法の開発、の3項目を順次実施することを目指した。 まず、項目(1)を進めることで、タンパク質を構成するアミノ酸残基を計算機上で簡略化するためのモデリングを実施した。その結果、アミノ酸のモデリング簡略化が有効であることが明らかとなり、当初の目的を達成することができた。項目(2)では、アミノ酸残基とマテリアル表面の間の相互作用ポテンシャルを理論計算することを目指した。アミノ酸残基の構成原子をすべて顕わに考慮したMD計算を実施することで、マテリアル表面とアミノ酸残基の相互作用エネルギーの定式化を進め、アミノ酸残基のみを考慮する場合でも、親疎水性の違いがマテリアル表面の機能や物性に及ぼす影響など、様々な考察が可能であることが明らかとなった。よって本項目は、当初の計画以上の進捗状況を示していると考えられる。 項目(3)では、タンパク質の吸着現象を対象に、マテリアル界面近傍における自由エネルギー精密計測法の基盤を構築することを目標とした。しかしながら、項目(2)の進展に伴って、項目(3)の当初目標を十分に補完できることが判明した。そこで、当該年度の終盤より、本研究における最終目標の早期達成に向けて、次年度に計画予定の研究項目に関する予備検討を開始した。ただし、今後の研究展開に応じては、項目(3)を再検討する可能性も踏まえるべきと考えている。 以上の実施状況を総合的に勘案した結果、本研究は、当初の予定どおり、おおむね順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、前年度までに実施済みの研究成果を応用し、タンパク質吸着現象のメカニズムを分子レベルで詳細に解析する。具体的には、(1)水分子のミクロ挙動がソフトマテリアル界面の機能に与える相関性の定量解析、(2)水処理プロセスにおける膜ファウリング現象のメカニズム解析、の2項目を実施する。 まず項目(1)により、ソフトマテリアル界面の近傍で生じる各種分子の複雑なダイナミクスを解明するための基盤整備を目標として、水分子のミクロ挙動の詳細解析を実施する。とりわけ、水分子の統計力学的諸量を詳細に解析するためのプログラムを整備することで、多様かつ詳細なミクロ情報の統合・集積化を進め、マテリアル界面の機能や物性を決定づける因子の絞り込みを図る。 続いて項目(2)により、膜を用いた水処理プロセスを対象として、膜素材の表面を修飾する置換基の種類を様々に変更し、界面の機能や物性が膜のファウリング挙動に与える影響を検証する。こうした一連の取り組みを通じて、水処理プロセスの最適な運転条件や表面修飾の条件に関して、研究成果の実験系へのフィードバックを実施する。最終段階では、水処理膜の高性能化に向けたマテリアル開発の指針提案を図る予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は、モデリングの手法構築や計算結果の解析作業に注力し、研究計画の円滑な遂行を図ってきた。これらの作業に対し、当初の想定をやや上回るエフォートを投入したため、計算用ワークステーションの購入の他に大きな支出がなく、初年度における所領額の中から、次年度使用額が発生した。 しかし一方、次年度に際しては、膜ファウリング現象のような、大規模スケールのモデリングが要求される系を検討対象としているため、当初の計画よりも高性能な計算マシンの導入が望ましい状況にある。そのため、初年度と次年度における所領額を合算した上で、研究計画の達成に必要な性能を満たす計算機サーバシステムを選定し、購入費用に充てることを計画している。 また、得られた計算結果のデータは個別の計算機にいったん保存しておくが、精度の高い統計的サンプリングを達成するためには、膨大な計算データの保存が必須となる。そのため、データ保存用のハードディスクを導入する予定である。 研究計画を円滑に推進すべく、膜工学やプロセス工学、計算化学など、各専門分野における研究者との研究打ち合わせを予定しており、その際の旅費を計上する。さらに、研究成果を公表するため、化学工学会や日本膜学会など、各種の国内学会における発表のほか、国際会議における発表を予定しており、これらの出張旅費を計上する。別途、学術雑誌での成果発表に際して、英文校正料、論文投稿料および印刷費を計上する。
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